美術館でお兄さんに声かけられたw:ヒッシュホーン・ミュージアム

また「アンディー・ウォーホール」かァ、
向かいのナショナル・ギャラリーでウォーホールの別の特別展を見たばっかしだし。
ウォーホールなら、別に実物みたところでどうってことないしなぁ。

てな感じで、DCのヒッシュホーン・ミュージアムでウォーホールの特別展をやってると知った時、
あんまし気乗りがしませんでした。
でも、ここの常設展示はひととおり見て時間もあるし、せっかくだから行ってみっか。

なんと無礼な・・・いやミュージアムのお客さんはコンナもんです。

展示室の入り口には、「Shadows」とあります。
なんでもない壁を撮影して、その複製を何枚もつくり、
違う色を施した作品群を並べるという、典型的な作品です。
ギャラリーの白い壁に同じ大きさの「Shadow」の複製がズラーと横一列につながっていました。
円筒形の建物で内壁も曲面になっているのですが、
そのせいか、展示全体が見渡せない反面、どこまでも続いていく感じがするのです。

「ここ写真OKかなあ」
そう呟きながら足を進めると、
展示壁の反対側に黒いタートルセーターのお兄さんが立っているのが目に入りました。
警備の服装ではない。でも館のスタッフみたい。
あのお兄さんに聞いてみよう!

と思いきや、彼のほうからこちらに近づいてくるではありませんか。
すてきなお兄さんが近づいてくるなんて、なんてすてきなギャラリーだろww

しかもですぞ、なんと彼のほうから声をかけてきた!

「どうですか?この展覧会、どう思いますか?」
へ?
来館者調査か?…そんな感じもしないけど。
(実は私、調査をしたことがあるので、直感でわかるのです)
お兄さんはニコニコしています。
その首からは青いクエッションマークとアンドリューという彼の名前がぶら下がっています。
興味津々。私は、アンドリューにもっと大きなクエッション・マークをつけました。

でも、「髪型かっこいいね」なんて言えないから・・・。
「とってもウォーホール的で面白いですね」トカナントカ、口は勝手にしゃべってる。
頭のなかはお兄さんへの?が膨らんでいく。

「この絵、ずーっと続いてるの?」
「そうなんです。102枚」
「わあ、スッゴい。しかもこのギャラリーのスペースにあってるウ」
「でしょ?歴史的に初めてなんですよ、全部展示するの」・・・

そろそろ、わたしの番に切り替えてもいいかシラン?
「あのお、質問してもいいですか?」

「もちろん!なんでも!」
「あなたのことなんですけどオ」
「・・・?」

彼はとても気さくなひとで、わたしの質問にもいやな顔しないで答えてくれました。
アンドリューの肩書きはインタープリテーション・ガイドというのだそうです。
インタープリテーションとは日本語で解釈と訳されます。
彼らは、作品や作家について基礎的な勉強をしてはいますが、
一方的に解説をするツアー・ガイドではありません。
作品の解釈は十人十色。
その見方を基本的に尊重しつつ、会話をすることで、お客さんの鑑賞をさらに豊かにするお手伝いをするんだそうです。
一人の世界に籠もって楽しんでいる人にとっては、うざったいかもしれません
。でも、わたしのように、ただぞんざいに(?)ボーと眺めている鑑賞者は少なくないはず。
彼らに声かけられることで、確かに頭のなかが刺激される。

そのことは、実際私自身が来館者調査をしたときにも発見したことでした。
調査の目的は、もちろん、どんな人々が美術館にやってきて、
彼らはどんな体験をするのかを客観的に調べることです。
展示の前で心に浮かんだことを何でも口にしてもらって、それを記録する質的調査というのもしました。

調査が終わった後、協力していただいたことに感謝したら、
彼らに感謝され返されたことが、実は少なからずあるのです。
一人で見てたらこんなにいろいろ思わなかったかもしれない。
あなたという聞き手がいたから鑑賞が深まったと。

そんなふうに、だれかそばに人がいることで、(たとえその人が聞くだけだったとしても)
なんらかのコミュニケーションが生まれ、
そのコミュニケーションが作品とのコミュニケーションをより活発にするのではないでしょうか。
このインタープリテーション・ガイドは教育部門の下にあり、数年前から始まったのだそうです。
イギリスでも今回のボストンとDCの旅でも、
とにかく私の知る限り、そういう試みを見たことがありません。
アンドリューによれば、NYのグッゲンハイム美術館にも似たようなスタッフがいるそうです。
アメリカでも、まだ始まったばかりの試みなのですね。
実は、このインタープリテーションという考え方と、日本で広まり始めた博物館教育のあいだには、もっとお話したいことがあるのですが、またの機会にしましょう。

とにかくも、この試みは、
美術館はみんなが静かに鑑賞する聖域か、活発な会話が生まれるフォーラムか
―というミュージアム学ではよく知られた疑問にも結びつくのかもしれませんね。
ウォーホールさん、どう思います?
「どうだっていいよ」なんて、声が聞えてきそう。

でも、ポップ・アートには、シーンよりガヤガヤが似合うと思うのだけど。

ねえ。わたしが、このブログの冒頭でちょっと気に入らないことをいったから、
そんな顔してるの?

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