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時空を超えるブロンズ像@ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ

扉を開けると、美しい人体が紺碧の空間に浮かんでいた。
鈍く輝くその体は、両手と右足がないのに、
残った左足が宙をけり、上体は優美に捩れ、美しい顔を右肩に傾けている。
流れる背中の線から、臀部のふくらみ、繊細な足先、なびく髪にいたるまで、
躍動感とエクスタシーに溢れている。

目にしているのは、紀元前4世紀のものと推定される「踊るサタイア」だ。
濃い青の壁面に囲まれた部屋の中央に、そのブロンズ像は置かれいる。他には何もない。
わたしは、まるで、1998年にこの古代の神を発見したシシリー島の漁夫の気持ちになった。
海岸でこの像を見つけたとき、どんなに恍惚の時を味わったことだろう。

ここはロンドン。
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで開かれている「ブロンズ」展の最初の部屋。
いきなりグイっと、引き込まれてしまった。
この展覧会は、ブロンズという素材を使って、人類が生み出した作品の数々、その多様性や表現力の深さを直裁に物語る。
構成は、地域別にも、時代順にもなっていない。
「人体」「動物」「集団」「神々」というテーマによって部屋がわかれ、別の時代の別の場所で制作されたものが隣合せに並ぶ。
たとえば、ロダンの人体像と中国の神像、アメリカの現代作家デ・クーニングの抽象的な人体像といった具合だ。

歴史順という従来のミュージアムの定石を外した展覧会が増えてきたことは、このブログで再三述べてきた。
だが、新しいアプローチ、テーマ展示は、その斬新さのために、ややもすると来館者を迷わしてしまうこともあるのだが、この展覧会は成功している。
ブロンズという素材をシンプルにテーマにすることで、実に無理なく展開してみせるのである。
それによって、考古学や古典美術、文化人類学、現代美術という既成の学問のボーダーを軽々と乗り越えることができるわけだ。ミュージアムの専門性のために、ふつうは同じ展示に並ばないものを、いっしょに鑑賞できるのは、実に贅沢な体験だ。

一点一点のセレクションもすばらしい。
個人のコレクションを含め、世界中から超一級のブロンズ作品を集めている。これだけのものを調査し、集め、構成するとは、さすが、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツだと思った。

最後に、もうひとつ、お気に入りを見つけたので、覚え書きしておきたい。
それは、ジェコメッティを思わすような、極端に細長くデフォルメされた少年像だ。
細いながらに、下腹部は少年らしいまるみを帯び、のびのびとした足は地面をしっかり掴んでいる。きれいに分けた髪が小さな顔をふっくらと包む。
その存在感は忘れがたい。
現代美術かと思いきや、なんと、紀元前2世紀のエトルリアのものだという。
エトルリアとは、古代ギリシア文化ともビザンチン文化とも違う、古代ローマ以前にイタリア半島中部でおこった文化だ。この像以外にも、会場のあちこちに古代エトルリアの作品があった。
そのどれもがとてもユニークだ。
昔、教科書で学んだはずなのに、わたしには「発見」である。

 


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