カンバーバッチ演じる『ハムレット』
昨夜、「バービカンホール」劇場が始まって以来の売れ行きというチケットを握り締めて、
ベネディクト=カンバーバッチ演じる『ハムレット』を見に行った。
これから見に行く人や映画版をご覧になる方のために、話の展開はあまり触れずに
記憶が新鮮なうちに、その印象を書き留めておこうとおもう。
演出家 Turnerの創る「ハムレット」は、かなり原作をいじってあった。
「ハムレット」、なんてだれもが知る芝居に、一演出家として新しい解釈をいれようとするのは頷けるし、
表現者としての当然のチャレンジなのだろうけど、こちらの力不足か、正直ついていけないところもあった。
脇役もいまひとつで、なんとなくうすっぺらな演技に思えることもあった。
舞台はとてもおしゃれで、うまく考えられていたけれど、コスチュームはあまり一貫性がなかった。
と、いきなりマイナス点を並べ始めてしまったが、
そんな芝居全体を引き締めていたのは、なんといってもカンバーバッチの演技の素晴らしさだと思う。
最初のシーンからとても引き立つ。
お祝いの場で周囲から逆に浮くように、静かに座って、ただうつむいているだけでも圧倒的に存在感がある。
双眼鏡でズームインしてみたら、すでにその両目が苦悩が満ちていた。
芝居の最初から、いや舞台にたつ前から「ハムレット」になりきっているのだ。
NGやカットができる映画とは違って、舞台は出ずっぱり、一回一回の舞台で全エネルギーを傾けなければ、すばらしい演技はつくれない。
演じる方が真剣勝負なら、観る方だってそうである。芝居にはそんなよさがある。
いうまでもなくハムレットは悲劇のヒーローだけれど、
カンバーバッチ演じるハムレットでユニークなのは、彼独特のコミカルな体の動きやそのリズムではないかしら。
そして、あのビロードのような声とその間の取り方や言葉のリズムの作り方。
実にユーモラスだ(たぶんここにあのシャーロックと通じるものが)。
ユーモラスな側面が演技のなかでちらちら現れるからこそ、かえってハムレットの悲劇が浮きぼりになる。
カンバーバッチばかり褒めちぎってるけれど、もちろん他にも光るシーンがあった。
狂ったオフェーリアとその兄が一緒にピアノを弾くシーンも墓堀人を演じた役者も芝居全体に花を添えていた。
カンバーバッチをひきたてるよう、役者たちのチームワークもとれていた。
劇場にやってくる人々は若い女性が多いのではと思っていたけれど、
意外にもかなり年齢層の幅があり、男性もたくさんいた。
芝居が終わって、カーテンコールになった時、
拍手の嵐のなかで白い上着のカンバーバッチが観客たちに話し始めた。
芝居については一切語らず、
シリアやアフガニスタンなどの紛争地から決死の覚悟で避難してくる人々の大波、
その現状を憂え、彼らのために寄金を募っていた。
あ~、もう、カンバーバッチかっこよすぎ!
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