祈りとオートバイ:マン島への旅
アイルランドとブリテン島のあいだに、「マン島」という小さな島がある。
最初にマン島の事を知ったのは、マシュー・バーニーというアーティストのビデオ作品からだ。
そこでの伝統的なオートバイレース、「TTレース」をテーマにしたもので、
豊かな自然と猛スピードのオートバイのコントラストが印象的だった。
その後、独自の議会や独自の「国旗?」をもつ独立精神旺盛な島であることも知った。
その不思議な旗は記憶のすみに残った。
そんな私が、実は、今年6月、「祈り」を目的とするお客様をお連れすることになり、
この島についてさらに学ぶ機会をいただいた。
マン島=オートバイレースというイメージをおもちのみなさんにも、
少しおすそ分けしたく、こうしてパソコン画面に向かっている。
これもご縁なのだろうか。
なんと、そのご訪問が 1年に一度のこの島の大イベント、TTレースの時期に重なった。
というわけで、ロンドンから乗った飛行機は、世界中からのライダーだらけであった。
島にはとても豊かな自然がある。
レースの時以外は、素朴な生活のある静かな島なのだろう。
でも、けして寂れているわけではない。
なぜなら、ここの税金はイギリス本国よりも低く、そのため、いわゆるタックスヘブンになっているからだ。
お金持ちがたくさんここに住んでいるという。
あの、車のTV番組「トップギアー」のプレゼンター(不祥事で最近辞めてしまった人)も、住んでいるらしい。
・・・さもありなん。
島を走っていても、豊かな生活が垣間見える。
かと思えば、蒸気機関車が普通に走っている。観光目的ではなく、庶民の足だ。
そんな島が、なぜ、「祈り」の場になるのか不思議に思われた方もたくさんいるに違いない。
実は、この島には、いわゆる「ストーンヘンジ」みたいなものが、わんさかある。
しかも、観光地化されていなくて、自然やひとびと生活のなかに残っている。
妖精伝説もたくさんある。
さらに、ここには ‘世界最古”の「議会」があるという。
キリスト教文化がはいってくる前の話だ。
マン島は、ちょうど、アイルランド、スコットランド、ウェールズを結ぶ中心地に位置する。
その地理的ロケーションのために、
それぞれの王や代表者たちが、定期的にこの島の中心地に集まり会議をしたのだそうな。
今もちゃんとそこに石のサークルがあり。 座長が座る石がおいてある。
その会議の場は少し小高い丘になっていて、360度みわたせる。
会議のときには、周囲の山々からラッパの音がしたのだとか。
ご案内した方たちは、そこで寝そべったり、瞑想したりなさっていた。
耳を澄ませば、ラッパならぬオートバイの音が聞える。
企画段階のときに、「祈りを目的にされているのに、たまたまTTレースに重なり、環境的に適切ではないのでは?」と心配したのだが、
「いいんですよ。ある意味、この島にエネルギーが集まっているのですから」とおっしゃった。
なるほど。
本レースは翌日からだったが、みんながルートの下調べや流しにきていた。
これが、本レースのゴール。
地元の女性タクシードライバーさんは、とてもよい人で、
レースのために島のレストランはどこもいっぱいだろうからと
オーガニックの店から食材を買い揃えて、海を見下ろす丘の上でピクニックを用意してくれた。
レースをさけて、わたしたちの祈りの目的をみごとにかなえてくれたのは、いうまでもない。
彼女は、なぜマン島がレースの場になったかという興味深い話も教えてくれた。
レースがはじまったのは、なんと1907年。これだって充分古い。
わがままな英国王子が、自分がみたモンテカルロのレースをイギリスにももってきたかったのだそうな。
でも、イギリスのどこにもそんなレースが自由にできるようなところはない。
でも、はたと、
「レースをやっても、誰も気にしないところがひとつだけある。そもそも、スピード制限もない。」
場所があることに気がついた。
それが、「マン島」だったのだ。
マン島の人にとっては、迷惑な話だろうが、
今では、世界に「マン島」ありと、しらしめる重要なイベントなのだろう。
ここに集まってきたライダーたちは、みんなキラキラした目をしていた。