教会の中の現代アート:ウィンチェスター大聖堂のアンソニー・ゴムリー
教会の地下室に降りていくと、ヒヤリとした空気に包まれた。
いくつも重なるゴチック式の屋根の下、
ひとりの男の像がぽつんと立っている。
両手を丸めて小さな杯をつくり、そのなかに目をおとして立っている。
水をすくってできた手のなかの小さな池に、自分自身を映しているかのようだ。
教会という空間だけに、静寂で瞑想的な空気が満ちている。
だけれど、魂は神に向かっているのではない-自分自身に向かっているのだ。
この教会は、イギリスでも最も古く、重要な教会のひとつ-ウィンチェスター大聖堂(642年設立)である。
地下室は教会建築の中で最古の部分だ。
男性像をつくったアーティストは、現在イギリスで注目を集める彫刻家、アンソニー・ゴムリー。
作品のタイトルは「Sound II」。
その像は、実は、アーティスト自身の体からとったキャストだという。
わたしが訪れた時、像が立つ床のヒビには、水が含まれていたのが見て取れた。
立像の足元に湿ったヒビが広がり、まるで作品が空間全体に広がっているようにみえる。
雨が降り続くと、その像が立っている床は水浸しになり、像の膝丈ぐらいまで達するらしい。
実は、この教会の下にはもともと川が流れていた。
紀元後100年以前にやってきた古代ローマ人たちが、その川の流れをかえて、町をつくったのがこのウィンチェスターという古都の起源だ。
そんな歴史を知れば、水をすくう人物像がより深い歴史の厚みのなかでみえてこよう。
思えば、教会は西洋美術のゆりかごだった。
音楽や演劇と同様に、美術は神の世界を表現するツールだった。
それが、貴族の家々を飾り、ブルジョワ階級を潤し、美術館に展示され、やがて美術館の外にでていった。
美術の機能も意味も表現も多様化した。
この10年、再び、美術が教会の中に新たにとりいれらたケースが増えたように思う。
でも、かつての機能や表現とは決して同一ではない。
宗教画ではなく、現代美術だ。
アンソニー・ゴムリーの Sound II がそうであるように。
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