アートは社会を変えるパワーになるか:アイ・ウェイ・ウェイ展
先日、ロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツに、
現代中国の気鋭アーティスト、「アイ・ウェイ・ウェイ」の大掛かりな展覧会を観に行った。
正直いうと、彼の作品はわたしの好みではないのだけれど、
相変わらず、社会批判精神に満ち満ちていて、ものすごくパワフルだった。
だからこそ、中国政府のブラックリストの筆頭に彼の名前があり、事実、逮捕拘束されたこともあるし、今も常に監視されているのだろう。
展示作品の中で、圧倒的なスケールで印象に焼きついたのは、「Straight:まっすぐな」という作品だ。
巨大な部屋の床に何千という鉄筋棒が並んで、波打っている。
ただ、それだけ。
その部屋の壁一面には、たくさんの漢字が並んでいる。ありがたいことに読める。
みんな、学校の生徒の名前だ。
そうすると、ピンとくる。
2008年、中国四川地方でおきた大地震。
たくさんの学校が潰れて、何千人という子供たちが亡くなった事。
その学校校舎が、中国政府の甘い建築基準と手抜き工事による「豆腐のくず」建築だったから、このような甚大な被害がおきたのだと、(少なくとも国外では)報道された。
壁の名前は犠牲者の子供たちの名前だ。
政府当局が隠蔽して、徹底した調査もしないし、情報も開示しない。
アイを中心とした市民ボランティアグループできあがり、今も調査を続けているという。
展示室の床に並べられた鉄の棒は、被災地からクネクネに曲がってしまったコンクリート建築用の鋼鉄棒を何トンも買い込んで、アイの北京のスタジオに持ち込み、一本一本手で叩いてまっすぐに伸ばしたものだ。
本来の目的ではこういう姿のはずだった。地震の前にはこうだったはずだ。
なんと、「まっすぐ」で、力強い表現だろう。
だからこそ、たとえ中国の地方でおきた震災でも、世界の人々も共感できるし、アート作品として胸を打つ。
すぐに、日本でも同じような事が起きた事に思いがおよんだ。
しかし、自分の身を危険に晒しても、これだけのスケールで政府を批判し、かつ世界に注目された日本のアーティストがいるだろうか。
「アイ・ウェイ・ウェイ展」をみて、アートは決して「きれいな世界」を見せるだけではなく、
今わたしたちが生きている社会を、もうひとつの違う角度から問い直してくる大きなパワーだとつくづく思った。
この展覧会については、もうひとつ考えたことがあるのだけれど、また機会があれば。
このブログは、アートローグのディレクターによって書かれています。
アートローグは、ロンドン現地にて、ユニークな文化の旅の企画・ご案内や
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