雨と土と海が創ったウィスキー:スカイ島/スコットランド旅2日目
北スコットランドの旅2日目をスカイ島で迎えた。
目覚めたら雨だった。
この地域は雨が多い事は知っていたので、さほどがっかりもしなかった。
予定していたウォーキングはやめて、ウィスキーの蒸溜所を巡る事にした。
それは、それで楽しみである。
だって、「スカイ島」の名前は、有名なスコッチウィスキーの銘柄から知っていたのだから。
話が飛ぶようだけれど、わたしの古い友人が石川県は能登地方で日本酒の杜氏をしている。
その友人のところにイギリスからの土産で、スカイ島のウィスキー「Talisker」をもっていったことがある。
ボトルのラベルには青黒く荒ぶる波の写真。
キャッチコピーには「海が創ったウィスキー」とあった。
日本酒では、こういうイメージで売る事はないねえと、友人。
確かに、荒々しい自然をそのまま、日本酒のイメージにしたものは余りないような気がする。
マイナスイメージになるのかもしれないけれど、
まさに生まれた土地そのものの厳しい風土に、誇りをもって、逆にそれを前面にだしている。
よくはわからないまま、そこにスコットランド気質を感じた。
実は、今朝、窓の向こうが雨空であることをみるまで
すっかりその事を忘れていたのである。
雨のスカイ島をめぐりながら、その荒涼とした風景を見渡しながら、
そのウィスキーの事を思い出した。
どんよりと重い空の下、ムーアといわれる低木に覆われた丘陵がつづく。
海岸線に近づけば、海はどこまでも暗く、白く荒い波がしぶきをあげながら唸っている。
その風景をみながら、あのウィスキーのパッケージの事、
あの、スモーキーでどこか海草の味のするウィスキーの事を思い出した。
スカイ島を廻りながら、海に面した小さな町Carbostに、その「Talisker」の蒸溜所を見つけた。
そこにはヴィジターセンターがあって、工場見学ができるらしいが、
この天候で、わたしたちと同じ考えの人たちが押し掛けていて、チケットはすでに完売になっていた。
残念だけど、旅はいつもこちらが望むようにはいかない。
それでも、そこに小さなミュージアムも併設されていて、次のような事を学ぶことができた。
まず、この島の地理的な特徴から、1年を通して雨量が多い事。
山並みに降り注ぐその天の恵みで、水が豊富で
だからこそ美味しいウィスキーが創れる事。
この土地にはピートが多く、そのためにスモーキーな風味が加わる事。
海に面しているからこそ、生産物を世界中に輸出する事ができる事など、
独特な風味のウィスキーがつくれる条件が整っていることを
理解することができた。
この蒸溜所の裏手には、豊かな水があふれる地下水があふれているという、
その水は鉄分が多いせいで赤い色をしていて、それがまさにウィスキーのようにみえて、
ゴーゴーと唸りながら荒波の海に飲み込まれていた。
あたりは、ウィスキーの香り漂っていた。
ウィスキーはそれが生まれる風土からから創られる事を、身をもって学んだ気がする。
それも雨の日だったおかげで。
帰りの飛行機の関係で、ウィスキーをそこで買う事はかなわなかったけれど、
次に、このウィスキーをグラスにコロンと傾けたら、
きっと、雨の日の荒涼としたスカイ島の風景が脳裏に浮かぶに違いない。