Who are you? グレイソン・ペリー展@肖像画美術館
「また、やられた!」 最初の作品を見てそう思った。
ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーで開催中の「Who are you? グレイソン=ペリー」という展覧会だ。
展覧会のタイトルからして、直球。
イギリスの王侯貴族から現代のセレブリティーまで、肖像画を歴史順に展示する美術館を舞台にして、
「あんただれよ?」である。
最初はだれに問いかけているのか戸惑うかもしれない。でも、すぐにわかる。
たとえば、壁面いっぱいの大きくて、色鮮やかなタペストリー、でかでかとエリザベス女王の顔がある。
でも、作品全体が女王のただの肖像画とはいえない。
なぜなら、それを囲むようにイギリスを表す言葉がぎっしり敷き詰められているからだ。
フィッシュ&チップス、雨、NHS(国民皆保険制度)、カッパ、ティー?(紅茶いっぱいどう?)、ヴィヴィアン・ウエストウッド、マグナカルタ・・・・
つまり、これは「イギリス自体の肖像画」ってこと。
女王の存在もその一部ってこと。
ペリーの他の作品は、肖像画美術館の常設ギャラリーのさまざまなところに散在している。
中世から現在にいたる歴史上の人物の肖像画と隣り合わせに、ペリーの作品がならべられているのだ。
モダンライフの部屋にいけば、ペリーの陶磁器作品があった。
そこに絵がかれているのは、「現代の」家族の肖像だ。
白人男性同士のカップルに養子となったアフリカ系の男の子という家族である。
別のコーナーにはシルクのタペストリー。 白人の女の子がイスラム教徒になり、ショッピング街からメッカにいくところを描いている。
アルツファイマーの夫と暮らす女性の肖像画 (陶磁器作品)
あるいは、キリスト教の慈善団体に助けられてホームレスの人たちが家族として暮らす家(陶磁器作品) ・・・
作品の隣には、ペリー自身が書いた解説ラベルがついている。
たぶん、モデルに出会っていろいろ話をきき、それをヒントに、作品をつくったに違いない。
王侯貴族でもセレブでもないけれど、それぞれが、現在に生きるパーソナルな物語である。
それらが美術館の常設展示のなかに、散在していることで、結局のところ肖像画とは何かとといかけてくる。
そして、もっといえば、
「WHO ARE YOU?」だ。
このブログを書きはじめた頃、グレイソン=ペリーの大英博物館での特別展のことをとりあげたことがある。
ペリーは、子供の頃からクロス・ドレッサー (異性装)だった。
今でこそ、晴れの舞台では、女性の格好をして人前に立つけれど、子供のころから自分のジェンダーやアイデンティティーに悩まされた。
そのことを重ねるならば、
「WHO ARE YOU?」の意味はもっと深くなるに違いない。
もうひとつ、「してやられた!」と思った理由は、
大英博物館での展示の時と同じように、展示という空間、しかも常設の展示と遊んでいることだ。
ペリーの作品が散在することで、従来の展示がまた違うように語りかけてくる。
ペリーは、英国人のアイデンティティーという枠組みだけではなく、アートという枠組み、展示という枠組みにも違う見方を誘うのである。
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