王様と愉快な愛人たち
明けましておめでとうございます!
アートローグ看板ウサギのロビンです。お久しぶりです。
2018年、ロビンはイギリス(たぶん)の知られざる(たぶん)歴史をブログすることにしました(ぜったい)。
隠れた歴史をひもといたり、斜めから歴史を読んでみたりしてみようと思います。
題して『ロビンのとんでもヒストリー』。
イギリスや歴史が好きだけど、一般的な歴史話にゃあ飽きちゃったよーという日本の皆さま、是非楽しんでね〜。
今日は、英国王の愛人たちのお話です。王様に愛人はつきもの(たぶん)とはいえ、この王様の愛人は特別(ぜったい)。
ロンドンのクィーンズ・ギャラリーで開催中の「チャールズ2世:アートとパワー」展に触発されて、書くことにしました。
展示された絵を並べながら、チャールズ2世と愛人の秘話についてお伝えしようという魂胆です。
チャールズ2世(1630 -85)といえば、ピューリタン革命で首を跳ねられちゃったチャールズ1世の長男。
これがそのお父さん。
まだ首がつながっている(処刑の数週間前)けど、どこか目が虚ろで手に力がない。
これがその処刑の様子を描いた当時の版画。
血を見るのが嫌いな人は飛ばしてね(白黒だけど)
こうしてイギリスはしばらく王のいない時代がありました。
でも、やっぱり王がいる方がいいと考え、フランスに亡命していた長男を王として迎え入れたんだ。
それが「王政復古」。そして新しい王がこの展覧会の主人公のチャールズ2世。
この方です。 やあ、ゴージャスです。
クルクルのカツラとか、フリフリのシルバー色の服とか、重たそうな真紅のローブとか、堂々と見せつける御御足とか、さすがおフランス帰り。
ちなみに、この時に造られた王冠や王笏や宝珠は、現在のエリザベス2世まで使いまわしているもの。
ロンドン塔のジュエリータワーでみるお宝と同じです。
このチャールズ2世は、とーっても派手で、パーティーが大好きで、ついでに女性が大大好きで有名なんだ。
これも、さすがおフランス帰り!!
王のとりまきの愛人たち、展覧会の中心にズラ~っとお披露目されてました。
英国王室は日本の皇室と違って、なんとアッケラカンと大ぴっらなことか。
真ん中がポルトガルから嫁いできた王妃、キャサリン・オブ・ブラガンサ。
左右の下段に並ぶ4人の女性が愛人たち。
でもね、愛人の数はわかってるだけで15人はいたらしいよ。
王のとりまきの女性たちの肖像画が並べば、確かにビューティー・コンペティション。王妃の絵は大きいだけで、彼女たちに比べるとちょこっと色褪せるかも〜。
結局、王妃との間には子供はおらず、愛人たちとの間には認知しただけで14人の子どもたちをつくったらしい。
ところで、ロビンが面白いと思う愛人はネル・グウィンといいます。(緑の壁の展示室にはいません)
この人です。羽がついているし、弓矢をもっているからキューピットに扮してるんだけど、
それがなかったら艶めかしいヌードじゃない!
愛人といえども、王の寵妃。こんな風に描いてええんか!
実は、彼女、他の愛人たちとは違って、下層階級の出身でした。
11歳で劇場のオレンジ売り(今ならアイスクリーム売り)として働き、やがて舞台女優になりました。
人気を博したネルは舞台を見に来た王の目にとまり、愛人となったんだね。
ネルはユーモアの持ち主で、王のことを「わたしのチャールズ3世」と呼んだり(ネルが付き合った男性の中でチャールズという名が3人目だから)、
王室の紋章をつけた馬車が町中を走っていた時、
フランス嫌いカソリック嫌いの市民たちが、馬車の中にはフランスから来た別の愛人、カソリックのルイーズ・ケアイユがいると思い込んで、腹いせに石を投げたら、
中からでてきたのはネルの方で、
「みなさん乱暴はやめて下さい。わたしはプロテスタントの娼婦よ」と言ったとか。
そしたら、「ネル! ネル! ネル!」と声援に変わったとか。
ウィットに富み、階級分け隔てなく親切にしたネルは庶民の人気者だったのね。
ところで、ルィーズ・ケアイユはこの人。フランスで流行の髪型をして、可憐で気品が漂ってる。
絵の中の花輪はやっぱりシンボルで、花の女神フローラを意味するのでしょう。
でも、花輪の持ち方に、どこかしら媚があるね。
ところで、ルィーズは、ネルと違って、ゆったりしたシルクの服を着てます。
ネルはキューピットとして描かれているから、裸でもええんじゃない?という見方もあるかも。
でも、他にも胸をはだけたネルの絵があるのよ。それはギリシア神話の神様に扮してなんかなかったぞー。
それにしても、ネルとルィーズの描かれ方の違い!
同じ王の愛人なのに、なんで描かれ方がこんなにかわっちゃうのかしら?
それってさ、ひょっとして階級が違うから?
でもね。
だからこそ、公衆の前で「わたしは娼婦よ」と言い切ったネルが、分をわきまえて、潔く、堂々としてかっこよいと、ロビンは思うわけ。
自分は娼婦だということで、自分を貶めるだけではなく、他の愛人たちや、はたまた王さえも貶めてる。
裸には社会階級もへったくれもないもんだ。
ここには、当時の女性の社会的位置とか寵妃同士の力関係とかが見え隠れするんだけど、
実は、ネルとルィーズの関係は単にメロドラマに収まらず、国際関係とも絡んでるらしいよ。
それはともかく、この展覧会でもうひとつ面白い絵がありました。
これ、王室のベットメーカーとして働いたメイドさんです。
当時、肖像画のモデルになるのは王侯貴族に決まってる。
メイドさんをこんな大きな肖像画に描くなんて、むちゃくちゃ珍しい。
彼女は、チャールズ1世のお父さんの時代から、チャールズ2世の次の次の王様まで仕え、100歳まで生きたんだとか。
ちなみにこの絵は96歳のとき。すッごい現役でシャンシャン。
王室の縁の下のグランドマザーだね。
箒を槍のように、かっこよく持って、口元も、握りしめる腕も、凛々しいわ。
「いざ、掃除せん!!!」
ところで、お父さんのチャールズ1世は、有名なアートコレクターでした。
処刑後、彼のコレクションはバラバラに売り出されちゃったけど、
王政復古がなされると、政府は大急ぎでそのコレクションを復元しようとしたのだね。
展覧会のテーマはそこにあります。
戻されたコレクションの中には、ピーター・ブリューゲルの素敵な冬景色の絵もあるよ。
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Queen’s Gallery 「Charles II:Art & Power」
2018年3月18日まで