運河沿いの散歩道:ロンドン、リージェンツ・キャナル
イギリスには国中に運河が巡らされています。
そこをナローボートという船で行き来したり、運河沿いを歩いたりするのが、イギリス人の慎ましやかで優雅な余暇の過ごし方。
秋もたけなわの、輝くような午後、ロンドンのリージェンツ・キャナル(運河)沿いにずーっと歩いてみました。
都会の喧騒を離れ、車も通らない、色づく木々と地元民の日常生活に溢れたすてきな散歩道です。
このエントリーでは、写真をふんだんに使ってご案内します。
歩いたのは、パディントン駅の北側にある「リトルベニス」というところから、ロンドン動物園のあるリージェンツ公園の北側をとおって、若者の町カムデンタウンに抜けます。
そこまでが徒歩2時間の行程。
日を変えて、カムデンタウンからイスリントンというところまで、ここも、2-3時間の行程。
ところどころ、運河がトンネルのなかにはいって、歩道が途切れてしまうところもありますが、ずーっと行けば最終的にテムズ川まで辿りつくことができるのです。
運河は、イギリスに産業革命がおこった18世紀から、電車が開発されるまでの期間、まさに物資やエネルギー資源を輸送した重要な脈路でした。(その歴史はエリザベス1世の時代まで遡るのですが)
やがて時代の必要から遠のき、潰されたり、朽ち果てるばかりになって、政府がすべてを閉じようとした1950年代、人々が立ち上がって、なんとか保存しようとしました。それが講を奏して、市民の余暇の場として生まれ変わったのです。
薀蓄はさておき、さっそく写真で、ご案内しましょう。
<一日目- 徒歩2時間コース>
まずは「リトルベニス」です。
「リトルベニス」とは、この近所に住んでいた英国詩人ブラウニングがここをイタリアの水の都になぞらえたのが最初だとか。
左手に見えるのがナローボートです。幅が狭いので文字通りナローボート。自転車ぐらいのスピードで移動します。
これは観光用で、これから、みんなカムデンタウンまで40分ぐらいのクルーズにでるのですね。
わたしの義父はナローボートの旅が好きで、ボートを一双借りて、数日泊まりながらの旅によくでます。
ボートの中には、ベットもトイレもお風呂もキッチンもあるのです。
義父はもともとコンコルドのパイロットだったのですが、リタイアーして、こんなスピードの乗り物を自分で操縦して楽しんでいます。 なんだか頷ける気がします。
わたしもイングランド中部の旅に便乗させてもらったことがあって、ボートの上で本を読んだり、川沿いのパブに立ち寄ったり、それはそれはゆったりした旅でした。
わたしたちは、今日は船のらず、運河に沿って東に歩きましょう。
黄金色に輝く水路が待っています。
ここらへんに停泊しているナローボートは、みんなおうちです。
そう、21世紀、船の上で生活するのは、ファッショナブルな選択なのです。
ほら、こんな風にプライバシーが保たれて、歩道は、彼らの専用の庭になっています。
だから、散歩する人は、10分ほどその上を歩くことになりますが、ナローボートに住む人々のユニークな生活を垣間見ることができます。
運河がリージェンツツパークにさしかかると、ゴージャスな豪邸が並ぶエリアにはいっていきます。
みんな運河に向かって広大なお庭をもっていて、噴水があったり、夏のコッテージがあったり、みるだけでうっとり。
いくつか橋の下をくぐると、運河はロンドン動物園のエリアにさしかかります。
キリンや孔雀がそばで見れたりするんですよ。
あらま、これまた優雅な。まさに、ベニス+中国ですね。
若い人たちも、自分たちでナローボートをかりて、屋根の上ですてきな午後を過ごしています。
現代人が日々のスピードから離れるには、ばっちりの休日の過ごし方です。
そうこうするうちに、また雰囲気が変わってきました。
ストリートアートなどにも出くわします。
どうやら、若者の町、マーケットとロックのカムデンタウンに到着したようです。
これまでのルート、つまり、リトルベニスからカムデンタウンは、ナローボートが定期的にでていて、9ポンドぐらいで船からの眺めを楽しむことができます。
2014年の夏は、九州からいらした娘さんとお母さんとおばさんの仲良し3人グループをご案内しました。(その時は逆方向でしたっけ)
サンドイッチ片手に乗り込むところです。夏の運河も、すがすがしくて楽しかったですね!
これは、船内。
あの時は、まだまだ運河の歴史をしっかり調べてなくて、心もとなかったけど、地図を広げながら、ロンドンのどのエリアを船が進むのかお話しましたっけ。
とにかく、日本からの観光客のみなさんが、めったにしないコースを喜んでもらいました。 (運河の後は、パディントンからポートベローマーケットにいったんですね!)
カムデンには、「ロック」といわれる運河の運行をスムーズにするシステムがあります。
どんなふうに操作されるのか、観察するのも楽しい。(みんな、自分たちで手で動かすんですよ)
あ、さっきの兄ちゃん、ワイン片手に楽しんでますね。
<二日目- 徒歩2-3時間>
カムデンタウンからキングスクロスを経由して、イスリントンまで。
カムデンタウンまでが、観光船もはいる人気のコースなら、ココから先は、もっと住宅地や産業地区にはいっていきます。
でも、運河の伝統的な本来の姿をみることができるのは、ここからなのかもしれません。
緑もおしゃれなカフェも少ないないけど、ロンドンに住む人々のもうひとつの顔もみることができます。
運河の本当の役割を知ることができます。
歴史と現代の開発、産業とアートという不思議な組み合わせをみることができます。
例えば、後ろにあるのは、戦後にできたガス工場の施設。
なんか、シュールで、わたしは結構好きです。
やがて、開発中のエリアにはいってくると、水上ボートの中古本屋さんがみえてきて、
なんと、ナローボートのジャズ・コンサートをしていました。青空の座席には人々がゆっくりくつろいでいます。
太陽がゆっくりと落ちていく、秋の午後です。
さらに、東にいけば、もっともっと、地元の人々が楽しむ静かな散歩道になっていきます。
鳥たちもたくさんみかけます。
この猫は、ボートで暮らすひとびとが、拾った石から彫ってつくったのでしょうか。
ああ、そんなくつろいだ時間がもてるのですね。
と思えば、ボート自体がアートになっているのにも出くわしました。
これ、けっこう有名なストリートアーティストが描いたものだけど、名前が浮かばない・・・。
そうこうするうちに、イスリントン地区に着きました。
このあたりは、近年おしゃれになってきたエリアで、
「カムデン・パッセージ」というアンティークマーケットがあることでも有名です。
運河から寄り道して、お店をうろつくのも、いいですね!
運河にもどれば、こんどは水路沿いに、レンガ倉庫のような
よくよく見ると、どうやらコンテンポラリーアートのギャラリーのようなものがみえてきます。
そうなんです。このへんは、Victoria Miroなどの 有名な現代美術のコマーシャルギャラリーが軒を並べているエリア。
これは、ご存知、草間弥生さん。
わたしが行ったときは、なんと隣で 大竹伸朗の展覧会をしていました。
このあたりは、これから開発されていくのでしょうか。
子供たちが、カヌーの練習をしていました。
最後にご紹介する写真は、ナローボートの伝統的な花模様が施されたじょうろやバケツです。
かつて、ナローボートの生活者は、運搬に関わった下層階級の人々。一生を船の上で過ごした人々です。
でも、こんなふうに生活に花を添えたのですね。
リージェンンツ・キャナルという運河沿いは、イギリスの古い伝統もロンドンの斬新な動きも見られる興味深い散歩道。
緑と水に溢れ、ゆったりとロンドンっ子の生活を垣間見ることができるすてきな散歩道です。
運河は、この後、緑の多いビクトリア・パークを越えて、ライムハウスを経由し、テムズ川に流れこんでいきます。
いつか、この先も歩いてみようと思います。
このブログは、アートローグのディレクターによって書かれています。
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