ザ・ペインター:マルレーネ・デュマス展@Tate Modern

ひとりの裸の幼女が立っている-右の手は濃い紫に、左手は赤く染めて。

膨らんだ腹は未熟な体内が透けて出るかのような柔らかな青で、

四頭身の白く広がった額とコントラストをつくっている。

額の下のくぼみには、攻撃的で同時におびえた眼が二つ。

あなたをまっすぐにみている。

ふっくらした頬に唇をぎゅっと結び、弱弱しい膝をがくがくさせながら、

彼女は、どこかわからない、どこでもあるような、白い空間に立っている。

まるで、はじめて人を殺した時の犯罪者のように。

 

タイトルは「The Painter」。

南アフリカ出身の女性画家、マルレーネ・デュマスの2メートル長の油彩作品である。

モデルはデュマスの娘であり、あるいは彼女自身なのかもしれない。

そこには、母と娘の関係や見る者と見られる者の関係が浮き彫りになる。

 

テートモダンで開催中の「マルレーネ・デュマス」展は、14の展示室を使って、

彼女の60年のキャリアーを年代順に並べた大掛かりな展覧会だ。

独特の淡いタッチなのに、捉えた人の深層がにじみ出る力強い作品が並んでいる。

それは時にとても親密な相手であったり、歴史的な、社会的な人物だったりする。例えば、

ナオミ・キャンベルやダイアナ妃、オサマ・ビン・ラディンといったメディアに騒がれた人々、

パレスチナ紛争で殺害されたある女性の死顔、

フランス革命でマラーを殺害した女性の頭蓋骨、

あるいは、イエス・キリストやマグダラのマリアなど伝統的な西洋絵画の主題になった人々。

それがだれであろうと、彼らひとりひとりの想いや彼らが背負った人生に親密に寄り添って、

それを共通の人間性として表現しようとしているのだ。

 

展覧会のラベルは、すべてデュマスの言葉が添えられている。

そのひとつひとつは、彼女の絵のようにポエティックである。

「The Painter」に添えられたデュマスの言葉を書き加えておこう。

絵画は、歴史的に女性的なものとしてみられてきた。

だけど画家は男で、女はモデルだった。

ここでは、わたしの娘が主役を演じている。

彼女は自分を描く。

モデルが画家になる。

彼女が彼女自身を創造する。

彼女は、あなたを喜ばすためにいるのではない。

自分を喜ばせているのだ。

問われるのは、

「彼女はだれか?」ではなく、

「あなたはだれなのか?」

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「マレーネ・デュマス」展

テートモダン

– 2015/5/10

http://www.tate.org.uk/visit/tate-modern


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