大きくなったら、海洋考古学者になる!
「大きくなったら、海の底を調べる古代エジプト学者になりたい」
– この展示を見たら、そんなふうに思う子がたくさんいるだろうな。
大英博物館で行われている「海に沈んだ都市−エジプトの失われた世界」展をみて、そう思った。
ナイル川が地中海に注ぐところに栄た町、トニス=ヘラクリオンとカノプスは、
現在のベニスがやがてそうなるように、海水の上昇に伴って海に沈んだ都市だ。
18世紀以来の古代エジプト学の発達によって発掘調査が進み、
古代社会のほぼ全容が明らかになったと言われるが、海の底は違う。
海の底はまさに闇の底であったが、近年、ようやく光が届くようになった。
最新テクノロジーを利用して調査に着手できるようになったのは、
実に1990年代に入ってからだという。
この展覧会では、その最新の発見や調査をわたしたちの目の前に明らかにしてくれる。
世界トップクラスの考古学者たちの仕事だ。
戦争や地震などで破壊されたわけでもないから、発掘されたものは永年眠っていただけのように美しい。
女神イシスを思わせるクィーンの像など、
とても紀元前3世紀頃のものと思えないくらいスタイリッシュで艶めかしかった。
ひとつひとつの展示物の横に、それが発掘された時の海底映像が流れている。
王の像を発見した考古学者は、海の中で、そのなめらかな頬をなでていた。
石の像ではなくて、まさに眠れる王を温めるように優しく。
静かな、だが心踊るエキサイトメントが伝わる。
なんと誇り高い出会いだろう。
わたしまで嬉しくなった。
それは、きっと子どもたちにも伝わる感動に違いない。
展示は、決して子供向けであることを声高に唱っていない。
だが、気がつくと、要所要所に子供に配慮してあるコーナーがある。
大人たちの鑑賞の邪魔をせず、とてもさり気なく、しかももっとも重要なところに。
その全体をみていて、この展示は単に子どもたちにわかりやすく解説しようとしているだけではなくて、
未来の後輩たち、未来の考古学者を育てているのだと思った。
トニス=ヘラクリオンとカノプスでの海底調査は、
まだ95%が手付かずだという。
「Sunken Cities」 大英博物館 2016年11月27日まで