大英博物館での「マンガなう」展

昨今、欧米のミュージアムでは日本の展示に「マンガ」は欠かせない文化だ。世界に冠たる博物館、大英博物館でも、現在、玄関近くの小さな展示室で特別展をやっている。

題して「マンガなう」。副題には「三世代のマンガ」とある。

戦後三世代を代表する作家は、ちばてつや、星野之宣、中村光の三人だ。

外野的視点から面白かった事は、ふたつ。

まず、それぞれの作家が大英博物館に依頼されて、今回のために新作をつくり、その原画が展示されていること。

例えば、ちばてつやは、ゴルフの発祥地セント・アンドリューでのゴルフをネタにした。

星野は、時空を超えるミステリー - 古代の歴史との関わりが大英博物館と絡んでいるのだろう。

中村は、ブッタとキリストが現代の東京で漫画を制作するという設定だ。

大英博物館あるいは英国をキーワードにしたときの、三つの世代の異なるアプローチに、

戦後日本の世界に対する考え方が反映されているという、主旨だろうか?

いずれにせよ、この展示からは、来館者の目にはそのように映ってしまったとしてもしかたがない。

ではなぜ、大英博物館は日本の3世代を代表する漫画家とし、あまたある漫画家の中から彼らを選んだのか。

残念ながら、展示はそのことに触れていなかった。

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もうひとつ面白かったのは、

大英博物館の日本担当の学芸員がそれぞれの作家たちにインタビューした状況を、マンガチックに紹介していることだ。

わたしは、数年前に大英博物館のアジア部門で働いていたので、

たまたま日本関係の学芸員たちを知っているのだが、

たとえば、ティム・クラークはもともと浮世絵の、またニコラは陶磁器の専門家で、実は現代漫画の専門家ではない。

言い換えれば、彼らにとっても漫画は新しい分野で、それなりのチャレンジであるはずだ。

確かに、いまや、日本文化を紹介する欧米の博物館美術館は、「漫画」は欠かせない存在になっている。

だからこそ、ふだんは展示の裏側にいるはずの学芸員が表にでて、

漫画作家と学芸員のパーソナルな出会い自体を、展示に持ち込んだことはとても新鮮で正直なアプローチだった。

その一方で、だったらなおのこと、なぜ、ちば、星野、中村の3人を代表として選んだのかを、

この展示のなかで説明してほしかったと思う。

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それにつけても、漫画を読むことは、カイコの中にいるような、とても個人的で親密な時間だ。

その経験そのものは、博物館という公的で開かれた環境のなかで、いったいどう現しえるのだろう?

漫画と博物館の文化メディアの違いをどう乗り越えるのか、(あるいはそんな必要は、実はないのか)

きっと、そこに、漫画を博物館という空間のなかで表象することの難しさがあるに違いない。

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聞けば、2年前に大英博物館で行われた春画展が、やっと日本で開催の運びになったらしい。

素晴らしいコレクションで構成された展示、大英博物館で展示された時は大変好評だった展示を、

大英博は本国日本で紹介したいと考え、受け入れてくれる日本の博物館を長い間探したものの、

大きな国立博物館からは悉く断られた。

内部筋から、大英博物館からの依頼ならいつもは二つ返事でゴーするはずなのに、日本の権威ある博物館ではこのテーマは受け入れられなかったことを聞いている。

やっとのことで、小さな博物館(永青文庫)で展示の運びとなった。

あの素晴らしい展示が、春画という文化を生み出した当の日本人の目に広くわたること、そのこと自体はとても喜ばしい。

博物館関係者や専門家はともあれ、日本の一般の人々のあいだでは、どのように受け止められているのか、とても興味深い。

 

春画と漫画は、読む側の経験という意味で重なるところがあるように思えて、ついつい、話が広がってしまった。

 

永青文庫 での、春画展は以下のリンク

http://www.eiseibunko.com/shunga/index.html

 

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