増幅する商品:草間弥生とルイ・ヴィトン in London

ここは美術館ではありません。
ロンドンの一大商業地区、オックスフォード・ストリートにあるファッショナブルなデパート
「セルフリッジ」のショーウィンドーです。
通りに面した全てのショーウィンドーは日本のアーティスト草間弥生の水玉一色。
正面玄関の豪奢な入り口には、巨大な草間像が立っています。

ここでは当然、モノを見せるというより、モノを売ってるんですよね。
「芸術作品」というより、ルイ・ヴィトンと草間がコラボレートした
水玉シリーズ「商品」をプロモーションしてるわけですね。
ひとつのショーウィンドーには、新作の靴や鞄といっしょに「増殖した」草間小人形が並んでいるし、
別のウィンドーの中にある等身大の草間蝋人形は、ふっくらした80歳の手にヴィトンの水玉鞄を提げている。

あー、あの蝋人形が着ている赤い服やカツラ、どっかで見たような・・・
そうそう、数ヶ月前、テートモダンでやった「草間弥生展」のオープニングで彼女が
車椅子で登場したときと同じファッションでした。
そういえば、あの展覧会の協賛もルイ・ヴィトンだったけ。
ロンドンの前には、パリのポンピドューセンターでも大型展覧会が開かれたのだった。ヴィトン協賛、もちろん。
そいで、その前は、NY、日本・・・

これが、思想家ジジックのいう、ブンカのネオりべってやつでしょうか。
以前エントリーした草間展についての記事では、
草間アートのコンセプトの根底には、彼女自身が抱えた精神的な妄想があり、
囚われたヴィジョンそのものを自らが「つくりだす」ことで、外界に対峙してきた・・・てなことを、書いたのでした。
その時は、1980年代のわたしの草間アートに対する印象が覆されたかのような評価をしたのですが・・・、
こういう文脈でくると、よくわからなくなってしまいました。

確かに、60年代のNYで、草間は美術館なぞという権威には背を向けて、いわゆるアングラで裸の男や女たちの体に水玉模様を描くというパーフォーマンスをしかけて、警察ざたになったのでした。
大量消費社会に対する芸術家としての反応として、すべてのものをドライスパゲッティで覆ってしまうというアグレッシブな作品をつくったのも彼女でした。

ところが、こんどは草間自身が消費社会の増幅する「商品」そのものになってしまったようです。
世界中でビジネス展開をするルイ・ヴィトンが草間商品を売り出して、美術館という限定された場ではなく、社会というスケールで(彼女の?ヴィトンの?)世界を広めようとするかのようです。
増幅/大量生産をテーマとするあるアーティストの個人的挑戦が、グローバル企業のほうに絡め取られてしまったということでしょうか?
美術館とショーウィンドーが見かけだけでなく、その役割もどんどん近寄っているということでしょうか?

かつて彼女の展覧会をしたことのある学芸員に聞いたことがあるのですが、
草間は、精神的な病を背負った一方で、自分の作品を売るためには、計算高いしたたかな所があったとか。
アーティストはだれだって自分の作品を売りたいわけだし、
アートはいつだって経済市場と結びついてきたのですけどね、もちろん。
草間弥生は、その時代時代の風潮を敏感に嗅ぎ取って、そこに自分の表現を結びつける方法を直感的に獲得できる人なのかもしれない。それがアーティストなんでしょ?って声も返ってきそうです。
全体・・・よーわからん。
はっきりわかったのは、草間がデザインした鞄には鮮やかな赤と白のドット模様の下に、ルイ・ヴィトンのロゴの地模様が隠れていたことだけ。

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