魔法世界を創造する:ワーナーブラザーズ、ハリーポッタースタジオ
観光のお仕事で、映画「ハリー・ポッター」の、ロンドンロケ地巡りツアーを提供している。
なのに、ロンドン郊外のワーナーブラザーズスタジオには、今まで行ったことがなかった。
本物の町並みに比べたら、映画のセットなんてバーチャルだし、
ワーナーブラザーズなんて、結局、コマーシャルなポピュリズムじゃないかと、
ちょっとリア充なわたしは、変なところでこだわっていた。
リア一充だって?何を矛盾したこと言ってんの?
ハリーポッターそのものがファンタジーだし、
それでお金いただいてるって意味では、アンタも同じでしょ?
そう言われたら、お説、ごもっとも!
先日、友人に誘われたこともあり、
つべこべ言わず、やっぱり一度は行っておいた方が良いと、重い腰があがった。
この時期限定で、映画に登場した動物俳優にも会えるという、触れ込みもあった。
正直、そんな低いモチベーションではあったが、
行ってみたら、いやあ、なかなか上手くできてじゃない!と感心してしまったのである。
魅力をひとことでいえば
全体の構成がとてもうまくできていて、
会場を回っている間に、映画造りのロマンとクリエイティヴティーそのものに、子供も大人も魅了されてしまう事だ。
たとえば、最初の導入から、よく考えられている。
まず、他の数十人の観客と一緒に、映画館のような客席に座らされる。
目の前の巨大スクリーンには、ダニエル・ラドクリフら三人の主役たちが登場し、
子供の頃から映画づくりに関わった現場での経験や、裏舞台で4000人ものスタッフの情熱と努力が結晶した事を語ってくれる。
「スタジオ見学すれば、きっとみんなも分かるよ」と
ホグワーツ魔法学校の大ホールに続く大きな門に私達を招き入れる。
そして、スクリーンがあがるや、突如その向こうに同じスケールのホンモノの門が現れる。
立ち上がって、自分たちの手でその門を開けると、
あの壮大なグレートホール(食堂)がわたしたちを待っていた。
そうやって、魔法の世界に引き込まれていくのだ。
会場全体が、そのように、観客の経験について配慮が行き届いた構成になっていた。
その後、魔法学校内部の様々なセットが展開する。
魔法化学の実験室、校長ダンブルドアのオフィスなど、
グレートホールを含めて、すべて撮影に使われたホンモノのセットだ。
あくまでも映像で、近くで見るわけではないからと、手を抜いていない。
壁にかけられた肖像画は、すべて手書きの油絵である。
ハリーたちの学寮「グリフィンドール」のコモンルームには、立派な暖炉があり、
なんと ハーマイオニーのペットの猫がソファーにぬくぬくと丸まっていた。
ホンモノである。
大男ハグリットの小屋のそばには、 ファングがいた。
こういう動物の俳優たちは、演技をさせるための特別な訓練士がいる。
この時期は、スタジオ内にもその訓練士がいて、
あるジェスチャーをさせるにはどうするのかデモンストレーションしてくれた。
こんなところで見世物になって、動物たちは、ストレス感じないだろうかと気になったけど、
どうやら老婆心だったようで、ちゃんとかわりの動物が複数いて、
代わり番コに仕事をしているし、コンデションによって動物たちはお休みするそうだ。
ダイアゴン横丁のフクロウ屋さんでは、ホンモノのフクロウが数羽、店先にいた。
ホンモノがいる方がやっぱリアルだなと、心の中でつぶやいた。
身勝手なわたしである。
ファンタジーの世界を演出するには特撮が重要なのはいうまでもない。
ここでは詳しく紹介しないけれど、その種明かしもよく考えられた流れで説明されていた。
わたしが一番気に入ったのは、
映画にでてくるランドスケープや建造物などのデザインのコーナーにはいっていく最後のエリアである。
映画づくりの設計者たちのオフィスを再現した部屋では、
実際に描かれた、おびただしい数の設計図が壁に貼られ、
一緒にコラボレートした「コンセプトアーティスト」たちの
イメージのラフスケッチが飾られている。
床には映画セットの縮小されたモデルがたくさん置かれている。
一枚一枚の設計図やラフスケッチ、ひとつひとつ丁寧につくられた模型を見ながら、
このような大作映画をつくりあげるのに、
人のイマジネーションがどんなに重要なのか、改めて理解できた。
そして、次の部屋につづく扉をあけると、
待っていたのは大きな部屋のまんなかに設置された、
ホグワース魔法学校全体の巨大な模型である。
あんなローテンションだった、わたしでも、
おおーと感動してしまった事を白状しないといけない。
これは、ホブワース全体の映像をつくるときに、
実際に使われた大きなセットで、
実に細かなディテール、物語のシーンにつながる部分部分が
すべて風景のなかで一体になる一つの世界といっていい。
会場をまわりながら、ハリーポッターファンのが単に物語を後追いするだけでなく、
大人も子供も、ファンタジーづくり、映画づくりの、イマジネーションとクリエイティビティーのみごとな融合に魅了される、そんなスタジオだった。
この展示をみたら、将来、映画づくりや、物語づくり、特撮のエンジニアー、あるいは動物の訓練士になるような子がでてくるのではないかとも思った。
そのように書きつらねてきながら、
最後にもう一度矛盾したことを書かせてほしい。
この映画のイマジネーションの源泉は、
いうまでもなく、JKローリングスが孤独のなかで書いた本である。
映画が先にあったわけではない。
イマジネーションはある一人の人間の言葉の中から生まれたものなのだ。
ハリーの恩師であるダンブルドアもこういったではないか。
モグル(ただの人間)にだって使える魔法があるか、わかるかね?
言葉じゃよ。
言葉こそが、尽きる事のない魔法の源なのじゃよ。
(基本情報) ハリーポッタースタジオには、ロンドンのユーストン駅から電車とシャトルバスで1時間弱で到着。わざわざ、観光ツアーに便乗しなくても、ご自分たちで行くことが容易にできます。ご自分のペースで好きなだけ遊んでいって下さい(平均所要時間3時間)。
入場チケットは、事前にオンラインで購入されると安いし、チケットを購入するために並ばなくてすみます。
このブログは、アートローグのディレクターによって書かれています。
アートローグは、ロンドン現地にて、ユニークな文化の旅の企画・ご案内や日英のミュージアム・コーディネートの仕事をしています。
観光の個人ガイドのほかに、文化講座や文化関係の通訳やミュージアム資料調査の代行も行っています。
「ハリーポッター」のロンドンロケ地を巡るツアーは、作者が構想を得た歴史ある路地裏歩きもします。
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