牛の背中のエジンバラ
スコットランドの都エジンバラには、英国の他都市にはない風情がある。
何より、その地形が特有のキャラクターを与えている。
観光の目玉の「エジンバラ城」は岩山の上に聳えているのだが、
その中世の要塞から現王室の居城であるホーリールード城まで、
まっすぐに主要道路が伸びている。
石畳の道。左右に伸びる石造りの堅牢な家々。イングランドの歴史を揺るがした由緒ある教会。ウィスキー屋。バグパイプの音。
それが、エジンバラの歴史を刻んできた「ロイヤル・マイル」だ。
ロイヤル・マイルの独特な佇まいに目が慣れてきたら、
立ち並ぶ土産屋やカフェの陰に隠れて、細い路地への入り口があるのをみつけてほしい。
「魚屋横丁」「鍛冶屋横丁」などの表示から、かつての市場が脳裏に浮かぶことだろう。
その暗い入り口に立つと、どの路地も全て、急な下り坂になっているのがわかる。
今度は、一片一片のピースをつないで、エジンバラの全体図を描いてみよう。
そうすると、ロイヤル・マイルを背骨にして、まるで牛のあばら骨のように、細い道が両側に伸びているのが見えてこないだろうか?
エジンバラがあるエリアは、かつて活発な火山地帯だった。
地殻活動のおかげで、岩山が細長く盛り上がった。
活動が止まって、カルデラの形状を残した特有の地形をつくったのである。
やがて人類が現れ、農業や牧畜で定着するようになり、
岩山を自然の要塞として、集落ができた。
そのうち最も権力をもつものが王となり、その岩山の頂上に城を造った。
それがエジンバラ城の祖型である。
ロイヤル・マイルを中心に町はますます拡大した。
独特な地形のおかげで、家々は斜面に立っている。
時代がすすみ、エジンバラはスコットランドの都になった。
その限られた土地に、ますます多くの人々が集まったため、
結果的に家を高くしなければならなかった。
まるで、ニューヨークの川に挟まれたマンハッタン島に摩天楼ができたように、
16−17世紀のエジンバラには、背の高い建物が林立する事になったのである。
低い土地には、かつては湖があったのだが、18世紀には、そこを埋め立てて緑地にし、産業革命の時代には鉄道を通した。エジンバラの中央駅がそこに建てられた。
エジンバラ城の反対側にあるホーリールード城は、エジンバラ城がたつ岩山より高い山の麓にある。
その山のもっとも高いところは、「アーサー王の椅子」と呼び慣わされている。
山に登り、「王の椅子」に座って西側を望めば、エジンバラの町全体が眼下に入る。
北側には北海が広がっている。
かつて、近くはオランダやスカンジナビア諸国、遠くはアメリカ大陸と貿易をした港だ。
夕方6時頃、王の椅子にしばらく腰掛けながら、
この夏のスコットランドの旅全体を眺めていた。