植物たちとアートのコラボレーション:デヴィッド・ナッシュ展@キュー・ガーデン

昨今、欧米のミュージアムでは、従来の専門分野を越えた展示が目につくようになった。
そういえば、日本でも数年前に上野の科学博物館でダーウィン展が開かれた時、
動物園との協力関係で、生きたゾウガメが展示されていたっけ。
あれは、暗い展示室の狭いケースに閉じ込められたカメが気の毒で、いただけなかった。
そんな一箇所での否定的な感情が展示全体の経験に響くわけで、二つの文化機関の協力という前向きな取り組みにもかかわらず残念なことである。

今回は、ロンドンでとても有機的で親密な関係をつくった展示を見た。
歴史のある広大な植物園、Kew Gardenで行われている、現代彫刻家の「David Nash」展だ。
Nashは木を素材にするのだから、すんなり環境になじむだろう。行く前からそうは思っていた。
では、作品が植物園にあることで、作品世界にどんなメッセージがこめられるのか。
あるいは、作品がおかれることによって、植物園がどのような意味を浮かび上がらせるのか。
そんなことをつらつら考えながら、晩秋の植物園をそぞろ歩いた。

彼の作品は、戸内のギャラリー空間だけではなく、広々とした戸外の敷地や、巨大なガラスの温室の中にも点在している。
アーティストの仕事場ですでに造られた作品を諸所に設置したというよりは、
植物園の環境や世界からやってきたエキゾチックな植物たちからインスパイアーされて、
この展覧会のために新たに作った(ひょっとしたらこの植物園で)のではないかと思う。
たとえば、南洋の植物の特徴的な葉の形と呼応するようなリズムが作品に響いていたり、
太い根幹の漆黒と光を浴びた緑葉のコントラストに、ぴったりの色調の作品がさりげなくおかれていたりする。
時には、植物の形態があまりに個性的で力強く、アート作品ではと思わされてしまうこともあり、自然の造形に改めて感服する機会を与えてくれた。
ひとわたり歩き回って、
はは~、これは、一点一点の作品というより、植物園全体を場にしたインスタレーションなんだと思った。
植物たちも彫刻作品も、そうして隣合わせにいることで、それぞれの美しさを際立たせていた。

あとで知ったことだが、作品づくりに使った素材は、この植物園にあった木々で、死んでしまったものを使ったのだそうだ。
アートとしての再生- ひとつひとつの作品にNashの自然へのひかえめな敬愛がこめられている。
それを植物園のなかに設置することで、
生と死という深遠なテーマや人間の営みと植物との関係性への問いが立ちあらわれる。

Nashは、通常の美術館という空間ではめったに展覧会を行わない。
彼の表現やその思想が、美術館という場にそぐわないからだろう。
今回は、美術館とは何かを改めて考えさせる機会でもあった。

会期中、違う季節にもう一度行ってみたい。

2013年4月14日まで


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