目も眩む頭骸骨:デミアン・ハースト展

巨大なタービン・ホールの中央に、設置されたブラックボックス。

暗闇に「Damien Hirst」の銀文字が浮かびあがってきます。

その前には蛇行する長い列。

プラチナとダイアモンドで埋め尽くされた頭蓋骨をみるために並んでいるのです。

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90年代、世界のアート界に旋風を巻き起こした

YBA(ヤング・ブリティシュ・アート)の旗手デミアン・ハーストの

大規模な展覧会がテート・モダンで始まりました。

彼のホルマリン漬けの鮫や真っ二つに切断された牛の作品は、

日本でも大きな話題を呼びました。

今回は、その鮫や牛、羊をはじめ、錠剤や吸殻を陳列棚に並べた作品や

色とりどりの水玉作品など、彼の全キャリアを一渡りするはじめてのエキシビジョンです。

わたしにとって目新しかったのは、

繋がったふたつの部屋のインスタレーション作品-In and Out of Love」。

そこに入るためには、また並ばなくてはならないのですが、

待ちのあいだに、ひとつの部屋を見ることになります。

壁には8枚の色鮮やかなパネル、そこには死んだ蝶が貼り付けられている。

部屋の中央のテーブルの四隅には、タバコの吸殻でいっぱいの灰皿。

やがて列が進むと、

湿気がコントロールされたもうひとつの部屋に招かれていく。

なかに入ると、たくさんの蝶が飛び交っています。

壁面には白いキャンバス。よくみると蛹がついていて

蝶が孵化した証跡が残っている。

中央のテーブルの四隅には、果物や砂糖水でいっぱいの皿。

蝶たちが群がっている。

これは1991年のソロ・ショーの時の作品です。

彼が一環してテーマにしてきたのは、明らかに

「生と死」そして、「美しいものと不快なもの」

コンテンポラリーアートの最前線としてデヴューを果たしたのに、

実に古典的なテーマです。

では、なぜあれほどまでに社会を騒がせたのかといえば、

もう彼のセンセーショナルな表現法に他なりません。

確かに暴力的で美しくもある。

彼を時代を代表するアーティストに仕立てたのは、自己プロモーションであって、

それを通して彼がいわんとするメッセージは、全くもって伝統的でストレートです。

有名になってから彼はよく

自分の手を動かさないで、アシスタントを使って制作していることを批判されます。

同時開催されている草間弥生もそのことを指摘していました。

でも、わたしには、

そのあまりのストレートさが、

彼のアートをうすぺらなものにしているのではないかと思うし、

そのことの方が、そしてそれに容易に扇動される社会の方が、

むしろ懸念されるのです。

まあ、ダミアンの思惑通りということか・・・

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ミューゼオロジー(博物館学)を専門にしてきた者として、

ひとつだけ興味深かったことをあげておきます。

ハーストは、ホルマリン漬けの魚や、薬や、手術の道具など

様々なものを中に並べた陳列棚の作品をたくさんつくっていますが、

その着想は、リーズという地方都市で育った時代に、

博物館と美術館がいっしょになった市の総合的ミュージアムがあって

そこに通った時の記憶から得たのだそうです。

ここからはまた別の話題にも広がるのですが、今日は触れません。

それにしても、

標本のように並んだ魚のひとつひとつをまじまじと観察している人たちがけっこういて、

デュシャンの「泉」の前で一生懸命眺めている来館者の様子を描いた漫画

その漫画の事を思い出し、ほくそ笑んでしまいました。

テートモダンがハーストの展覧会を

オリンピックの時期にぶつけたのは意図的な試みでしょう。

アートはセンセーショナルなマーケティングが命だということでしょうか。

 ちなみに、ダイアモンドの頭蓋骨は無料で見ることができます。


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