焼け焦げたひまわり:アンゼルム=キーファー展@Royal Academy of Art
地面に横たわって、男は何を見ているのだろう?夢? いや ひょっとしたら死んでいるのか?
男の上には、彼の3回りも大きいひまわりが何本もつったていて、男を観察するように大きな頭をもたげている。
すっかり灰と化した花は黒い太陽のようでもあるし、腕をたらした巨人の亡霊のようにもみえる。
3x4m四方のキャンパスは、絵の具や樹脂で厚く塗られ、まるで地層のように亀裂が入っている。
色彩も無く、画面全体が荒れ果てた荒野のようだ。
ドイツのアーティスト、アンゼルム=キーファー (Anselm Kiefer) の、『夜の秩序』という作品である。
キーファーは、ナチスが崩壊した年に生まれた。
周囲の大人たちも社会も近史のことを頑なに語ろうとしない、そんな環境の中で育った。
子供ながら、大人たちが隠していることを調べてきた。
そのことが、この芸術家を重い歴史と向き合わしめてたのである。
2014年ロンドンでの展覧会は、
1960年代の本を思わせるような作品から、大きなキャンバスの作品、部屋一杯をつかった近年のインスタレーションまで、彼の全仕事を大きなスケールで紹介する。
雪原の空に女の顔が浮かぶ不思議な水彩画が展示されている。
ナチスのモニュメンタルな建物を思わせる、廃墟のような巨大な作品-その中央に、枯れたひまわりが逆さにぶらさがっている。
見渡す限りの荒涼とした雪原に、焼け焦げた本がいくつもうまった作品もある。
美術館のパティオには、巨大なガラス容器のなかに、何体もの鉛の戦艦が宙ずりになっている。
キーファーがしようとしているのは、ナチス時代に対する直接的な糾弾とか内省ではないことが、ギャラリーを歩きながら少しずつわかってきた。
彼の表現対象はある特定の時代だけではなく、人類の歴史全体に向けられていることもみえてきた。
キリスト教やドイツ神話、歴史上でおこった海戦、アフリカや南アメリカの文明の数々・・・。
それらひとつひとつの出来事も、彼の目からみたら、繰り返された人間の歴史のひとつの断面であり、
彼の作品が織り成す断層は、そうした歴史の厚みなのだ。
あの『夜の秩序』をもう一度みてみよう。
ひまわりは太陽であり生命の象徴だが、時がたてば、重い頭をもたげ、黒い種を落とす。
やがて本体が枯れ果てても、その種は夜の星のように、横たわる男に降り注ぐ。
そして新しい日が生まれるだろう。
男はキ-ファーその人であり、かつ人類全体を意味するのかもしれない。
人間は、朝と夜を行き来しつつ、地獄や天国を生み出しながら、死にまた生きる。
文明や神話を作り上げ、破壊し、また新しい地平をつくる・・・。
そしてふと思うのだ。
今、わたしたちはどこに向かっているのかと。
そのことを、まるで錬金術師のような緻密さと洞察で、
預言者のような大きなヴィジョンで、
キーファーは、わたしたちに問いかけている。
(情報)
Anselm Kiefer
Royal Academy of Art
– 14th December まで
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