クリムト生誕150周年を祝うウィーン

2012年初夏、ウィーンの街は、クリムト生誕150周年記念で賑わっていました。
街には、いたるところにクリムトのイメージが溢れ、美術館は特別展を企画して、彼の業績を称えています。

興味深かったののは、各美術館が手法を凝らして、違う角度からクリムトの作品や、アーティスト自身、そしてウィーンや世界に残したレガシーに光をあてていたこと。当たり前といえば、そのとおりですが、はっきりとテーマを打ち出し、美術館同士がコラボレートしていたのは、さすが歴史ある芸術の都と感服しました。

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例えば、もっとも人気のある美術館「ウィーン美術史美術館」。ここには、玄関ホールの天井高いところに、クリムトが描いた壁画があります。今年は、そこに臨時の足場が組まれ、間近で鑑賞できるようになっていました。それは、古代エジプトから現代までのアートの流れを象徴的に語る壁画。
クリムトの手によって、ファラオの時代の高貴な女性が、独特の甘美な表情とともに20世紀に甦ったかのようです。

壁画といえば、セセッション(分離派協会)の有名な「ベートーヴェン・フレーズ」のことが思い出されるでしょう。
果たして、ここにも、臨時の足場が組まれていました。この壁画(やはり天井近くの壁に描かれている)は、「人類の幸福への憧れ」がテーマになのですが、シンプルに響くこのテーマに、人生の微妙な色合いが織り込まれているのが、手に取るようにわかります。

有名な「接吻」は、ヴェルヴェデーレ宮殿にあり、彼のほかの作品といっしょに展示されていました。他の展示室はそれほどでもないのに、この部屋だけは人がいっぱいで、館のスタッフが人の流れをコントロールしていたほど。わたしは天邪鬼なので、あまりに有名になりすぎると、逆に関心が薄らいでしまいがちなのですが、間近で見ると、彼独特の女性への賛美に心動かされます。その女性を前に、どうにもコントロールのできない男としての自分も赤裸々に描いています。

他の美術館とは違って、レオポルド美術館は、彼の作品をその人生と照らし合わせてみせていました。パートナーであったエミリエ・フローゲに宛てた何百通もの手紙や、写真、彼が使った家具などといっしょに彼の作品が並べて展示され、アーティスト、クリムト像をさまざまな角度から理解し、かつ、生涯の時々に生み出された作品の背景、そしてウィーンに与えた影響を理解できるように工夫されています。展示のしかたもとても斬新で、目をみはるものがありました。

でも、わたしが最も興味深かったのは、アルヴェルティナ美術館の展示でした。クリムトの素描だけを集めて、ラフに時代順に追うシンプルな展示です。クリムトというと、金色をふんだんに使った色鮮やかな装飾的絵画のほうが思い出されますが・・・、思えば、これだけの彼の素描をまとめてみるのははじめてでした。その一点一点が、実に生き生きとしていて、彼の表現に対する精神が如実に表れている。まさに、色づけされて飾られた絵画の奥底に、人生や女性への思いが流れていることを、筆の動きだけから感じることができるのです。正直いうと、はじめアルヴェルティナはあまり期待をしておらず、ウィーンの最後の日にとっておいたのですが、先にこれを見ておけば、他の絵画や壁画への鑑賞が違ったかもしれません。

このように、街をあげて、ひとりの芸術家を違う角度から見せること、そこには、各美術館のテリトリーを越えるみごとな連携プレーがありました。そして、そのように表象することが、また、それを受け止めることが、ウィーンのアイデンティティを築く助けになっているに違いないと思うのです。

 


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