レオナルド・ダ・ヴィンチが描く桃太郎?
ロンドン・ナショナルギャラリーでのレオナルド・ダ・ヴィンチの大展覧会に続いて
この5月からは、クィーンズ・ギャラリーで「レオナルド・ダ・ヴィンチ:アナトミスト」が行われています。
英国王室のコレクションには、大量のダヴィンチの素描があるのですが、
今回の展覧会は人体の解剖学調査のための記録スケッチに焦点があてられたもの。
周知のように、彼は絵画だけではなく、彫刻、建築、音楽、解剖学、エンジニアリング、地質学、植物学など
広範囲にわたって人間や外界を理解しようと探究をした、いわゆる「ルネサンスの人」です。
展示された素描の一点一点からは、人体の構造だけではなく、生命のなぞに対して
やむなき探究の精神が感じとれます。
それらのいくつか、たとえば筋肉のつき方や骨格や神経のつながりなどを描写した作品群は、
現代の医学の目から見ても、かなり正確なのだそうです。
ダヴィンチが引き取り手のない死体を受け取って、自らメスをとって解剖をしたことは有名で、
そこには、彼のエンジニアリング(動きの研究)や、人間に対する深い観察力と、なにより描写力が
みごとなまでに融合しており、単なる解剖学書の解説図を越えているといっても過言ではないでしょう。
わたしにとって最も興味深かったのは、女性の体の中の胎児を描いた素描でした。
厚い殻に覆われた球体のなかに、胎児が臍の緒をからませて丸まっている不思議な図です。
こちらの方は、科学的真実からはかなり的がはずれているのですが、
それもそのはず、なぜなら、妊娠した女性の体を解剖することは適わなかったからです。
そのため、ダヴィンチは、牛の子宮を人間の子宮に見立ててこれを描いたのだそうです。
もちろん、牛の子宮は手にとって観察することができるし、
また、動物と人間は生命的には同じ構造体をもっていると考えられていましたし。
そこには現実的な障害とのジレンマの中で
できうる限り科学的なアプローチをしようという
生命の問いに対する並々ならぬチャレンジが伺えます。
ところでこの擬似子宮、わたしには動物の臓器というよりも、木の実の殻のように見えてなりません。
ここには、植物の生命にも関心があったダヴィンチのものの考え方が反映されていると言ったら言い過ぎでしょうか?
話が唐突にかわりますが、明日からはエリザベス女王の在位60周年記念式典が行われます。
このクィーンズ・ギャラリーは、バッキンガム宮殿の一角にあるのですが、
宮殿付近もテムズ川も、そのための準備ですっかり祝祭ムードに溢れています。
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