千客万来か、至福の時か:レオナルド・ダ・ヴィンチ展@ナショナルギャラリー

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ルネサンス美術の最高峰に讃えられるレオナルド・ダ・ヴィンチ。14点しか存在しない彼の作品(油彩画)のうち、なんとその半分以上がロンドンに集まった。これだけの作品が一度に見られるのはこれが最初で最後かもしれない―そんな触れ込みの展覧会「レオナルド・ダ・ヴィンチ − ミラノ宮廷の画家」が、119日からナショナル・ギャラリーで開催されています。

これぞギガ・ブロックバスター展!クリスマスの飾りつけでにぎわったロンドンのトラファルガー広場は、いつも以上にフェスティヴな雰囲気です。それをはじめて知ったときのわたしの内心は、「うわあ、すごい。でも、もしこれが日本で開かれたとしたら、ゼッタイに行かないだろうな」というアマノジャクでした。もちろんダ・ヴィンチに興味がないわけじゃあない。そうではなくて、展覧会場での体験がどんなものになるか簡単に想像できるからです。

 そもそも列に並ぶのが人一倍苦手なうえに、人気に酔いながら、頭越しにほんのつかの間垣間見るだけなんて、そういう出会い方をしたくない。それが外国から借りられた作品なら、たとえお金払ってでも収蔵館での豊かで特別な出会いがやってくるのを待つ方がずっといい。美術館での体験はまさにわたしの主要な研究テーマですが、そんなのは棚にあげて自分のことになるとそんな感情に速攻忠実になるのです。

 じゃあ、なんで「もし日本で開催されていたら」であって、ロンドンのナショナル・ギャラリーでならいいわけって、思われるでしょう? それというのも、実は、この展覧会が来館者との出会いの空間にもっと配慮していることがわかったからなのです。集客数がとても高くなることはもちろん織り込み済みでした。だから、入場数を制限するシステムが最初から導入された。つまり、日時限定の前売り券をネットなど通して売り出し、会場内の混み具合を抑えたってわけ。

 もちろん展示作品の保護や安全への対策の意味もあるでしょうが、芸術作品と来館者との出会いの時間がなるべく豊かなものであるようにという考慮が伺えます。このシステムの導入で、来館者は、冬空の下、チケットを買うために美術館の前に延々と並ばなくても済むし、なにより、芸術家の制作の息吹を身近に感じるだけのゆとりが、少しは期待できるはず。

 ○○展、何万人突破!なんて集客力を競うような姿勢はここにはありません。第一、ヘッドラインに来館者数が書かれた記事なぞイギリスではほとんどみたことがない。日本の大型展覧会の、来館者数=成功という考え方、そろそろ見直してもらいたいものです。まあ、日本の場合、そういう目玉展覧会は大手新聞社が主催することがほとんどだから、そこにも問題があるんだけど。

 

 もっといえば、そもそも、そういう大掛かりな展覧会ばかりが流行るという状況自体がおかしい。思えば、日本に帰っていた2008年から2009年のあいだ、以前にもまして超目玉展覧会があちこちで開かれるようになったという印象を強く受けました。そういう展覧会には膨大な宣伝費が費やされ、それに乗せられた人々がミュージアムの前で長蛇の列をなす。片や、地味だけどよく創られた展覧会なのに、人がぜんぜんはいっていないという両極現象が目につきました。こういうのをポピュリズムというのでしょうか。ひょっとしたら、これは展覧会をつくる側の問題だけではないのかもしれませんね。

実は「ブロックバスター」という言葉はイギリス生まれです。もともと第二次世界大戦で使われた破壊威力の大きい大型爆弾のことを指しました。戦後になって、期間限定の特別展示というものが試みられるようになり、それが商業的に大成功を収めると「ブロックバスター展」といわれるようになったのです。つまりは、ミュージアムの展示が商業主義と結びつくのはやはり欧米が先行していたというわけです。そちらのほうに話をもっていくと脱線してしまうので、今日はこれ以上進めませんが、そうした歴史の流れのなかで、美術館体験の質にも関心が向けられるようになったのだと理解できるでしょう。

 さて、・ヴィンチ展に話を戻せば、買わなきゃって思ってた前売り券、展覧会オープン2日目にしてなんと完売になってしまっていた。いやはや、イギリスも日本と負けず劣らずなのか、それともダ・ヴィンチ力のなさる仕業か。だが、しかしです。たぶんそうなることも計算されていたに違いない、毎日当日券(500枚)を販売するのだそうです。それを手に入れるためには長い列に並ばなきゃいけません。うーん。悩みどころですが、大雪の日に肩を震わせながら並んでる自分の姿が目に浮かびます。もしうまく見ることができたとして、期待が裏切られないことを祈りつつ。また、このブログでご報告することにしましょう。

 

後日談;そして、並びました

Leonardo da Vinci: Painter at the Court of Milan

09.11.2011-05.02.2012 @National Gallery (London) 

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