イブニングドレス展の二つの死
ヴィクトリア&アルバート博物館で開催中の「イブニングドレス(夜会服)展」は、目の保養になる展覧会です。
気楽にこれが素敵だの、イケテルだのと自分の好みで楽しめる。
私個人はアレクサンダー・マックィーンです。とってもゴージャスでアンビバレントな感じがする。
たとえばこれ。カットは実にシンプルなのに、表のファーと裏地の絹という素材の使い方もコンセプシャルで素敵でっしょう?靴もユーモラスでいい。
目に心地よいのは展示がそういうつくり方をしているからでもあると思います。ここには、ファッション史を紐解くようなミュージアムの常道はありません。むしろ、ひとつの展示ケースの中に展示された複数の衣装が色合い的に響き合うようになっており、目を楽しませてくれます。面白かったのは、このドレスを着たセレヴが誰で、彼女と服との関係が読み取れるようになっていたこと。有名な女優たちや王室の貴婦人たちの名前のオンパレードです。逆に展示されたドレスを通して、彼女たちのパーソナリティがかいま見えてくるのです。
もっとも印象に残ったのは、白いドレスで統一されたケースでした。そのうちのひとつがキャサリン・ウォーカーがデザインし、ダイアナ妃が着たすてきなドレス。白の絹地一面にパールが施されたとってもシンプルなもので、優美さのなかに、どことなく気さくなボーイッシュな感じがでていてダイアナ妃らしい。
その隣には、先ほどのとは違うアレクサンダー・マックィーンのドレスが並んでいます。
上品なAラインの絹(たぶん)のドレスは、白を基調にさまざまなグレイのレイヤーがはいり、胸には中世の宗教画の天使を思わせるようなふたつの顔が浮かんでくるもの。
キャリアの最後期に作られたのだそうですが、脇にある解説ラベルにはさらに、当時のマックィーンの様子を知る友人のコメントもありました。それを読めば、ものづくりの周囲にある社会的環境に対して懐疑的になっていた彼のアンニュイな感じが、ドレスからも漂ってくるような気がします。
思えば、ふたりとも現代のファッション界をリードした人たちなのに、アクシデントと自死という違いはあれ、社会によって死に追いこまれた人たち。ふたつのドレスを並べたのはキューレターの意図ではないかもしれませんが、白のケースということもあって、彼らがファッションに与えた影響とその死をだぶらせてしまいました。
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