「きょうの料理」古代ローマ編:ロンドン博物館

「フライパンにオリーブオイルをちょっととたらして、おだんごにまんべんなくこげ色をつけます。いい色になってきました・・・」

料理番組かしら?
いいえ、ここは博物館。古代ローマの展示室の中です。
TV画面の向こうには、古代ローマ時代の一般家庭のキッチンを再現した展示があります。そこに展示されているものは、もちろん本物の考古学資料。

なるほど、古代ローマの料理の再現ってわけね?ってことは歴史家か料理家がさもなきゃ学芸員がデモンストレーションしてるって事?
確かに古代ローマのスィーツの作り方なんですが、画面の解説者は、ちょっとシャイな男の子で、試食してるのもその仲間。
これはロンドン博物館の新しいプロジェクト、ティーンエイジャーを展示作りに巻き込もうという試みなのです。
他コーナーでも、同じような展開がくりひろげられています。

例えば、化粧品の道具や材料の展示コーナーでは、古代のおしろいの作り方を高校生たちがやっている映像が考古学資料とともに展示されている。
古代のメッセージが書かれた石片のわきには、フェイスブックのページを示したiPad がおかれている。
ローマ時代が斜陽し、社会的問題が生じた頃の記念碑のわきには、授業料値上げを実施した政府に抗議するプラカードが掲げられている。
ワインの壷やガラス器などのわきには、キッコーマンしょうゆなどスーパーマーケットで入手できるさまざまな輸入食材が並んでいる。どれもこれも、現代の若者による考案を元にしているのです。

博物館はもっと専門的で正統的なものであって、こんな若年思考でごちゃ混ぜにされてはかなわない、という声もあるでしょう。
確かに、このつながりって無理があるんでないのという箇所もありました。展示全体の一貫性が保てないというマイナスもあるでしょう。
でも、こういう展示をすることのプラス面に、むしろ目を向けたい。重要なのは、古代ローマが一般来館者にとってもっと身近なものに感じられることです。共通点や違いをみつけたり、市井の人々が現代人と同じ悩みを抱えていた事や、人生や社会に対する個人的なチャレンジを、新鮮な目を通して感知することができる。
もうひとつ、博物館にとって大事なのは、ティーンエイジャーを巻き込むことなのかもしれません。
というのも、この世代はミュージアムにとって最も難しい世代。
子供たちなら学校や親が連れてきてくれる。大人になれば、彼ら自身の興味で訪れてくれるだろう。ところが、ティーンエイジャーからすればミュージアムなぞもっともしらける場所で、逆に言えば、ミュージアムにとってはもっとも手ごわい世代なのです。
でも、この世代を大事にすることによって、将来的に層の厚い来館者を作ることができます。
欧米の博物館で、ティーンエイジャーを巻き込むかようなプロジェクトが増えてきたのも、そうした理由からかもしれません。

さまざまな取り組みが行われる中で、数々の問題点が生じているのも事実。ですが、ロンドン博物館のそれは、常設展示にさえその動きを積極的にとりいれた斬新な試みだといえるのではないか。小さな問題点はさておき、わたしは、そのことを評価したいのです。

Museum of London

古代ローマの頭像と「オキュパイ・ムーブメント」の面を通して、マスクの役割を問う。ロンドン博物館

 


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