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素晴らしく裏切ってくれた「ターナーと海」展:ロンドン海事博物館

グリニッジにある国立海事博物館で開かれている「ターナーと海」展がかなり盛況らしい。この展覧会のポスターをみた時、なるほど、海の博物館でやるターナー展だから、きっと美術館とは違って、ターナー作品と海にまつわる道具や船などの海事資料がいっしょに展示されるのだろうと思い込んでいた。それはそれで面白い企画に違いない。 欧米はもちろん、昨今では日本でも動物園と美術館のコラボレーションなど様々な企画が活発になっている。

 

先日、やっとグリニッジにまで行くことができた。ところが、先の期待をもちつつ、展示室に足を踏み入れるとどうやら様子がおかしい。すぐにわたしはとんでもない思い込みをしていたことに気がついた。海にまつわる道具と絵画の並列など見られず、展示室はすべてターナーの絵画作品(80%)とそれをサポートするような関係のある画家(20%)の作品で埋め尽くされていた。そうして、それも当たり前のことではないかと合点がいったのである。

 

海事博物館が「海」を物語るのならば、ターナーという巨匠が追求した「海」の作品世界だけで展覧会を構成して、なんの不都合があろうか。仮に、展示が海事関係の「もの」と並列していたら、彼が絵画の中で表現した世界観が薄まってしまったかもしれない。ターナーはその世界を薄めてはならない巨匠だ。そう気がついたら、わたしの先入観が鑑賞を妨げていたような損をした気分になり、はじめからもう一度作品一点一点をみていくようココロを入れ替えたのである。turner-hot-ticket

 

全体的によく創られた展示であった。なにより、「海」をテーマにした作品だけを、イギリス本国だけではなく、アメリカ合州国やオランダ、ポルトガルなどから集めてきて、ひとところで一度にみることのその贅沢。展示構成は、ゆるやかに、彼の画歴を追う流れになっている。 水彩画に秀でた若き天才が、初めて油絵に挑戦したのも、海の作品、「Fishermen at Sea」だ。 月の光に映された海のなんとミステリアスで深遠なことか。畏怖の念を抱かせ、同時に小船を包み込む懐の深さがうまく表現されている。

 

作品を見ながら、自ら荒れ狂う海の船に乗り込み、船長に頼んで、自分の体をロープでマストに括りつけ、嵐のなかを長時間もスケッチしたという、逸話を思い出した。目だけではなく、体まるごと海や自然の驚異の中に入り込み、それをキャンパスの中でアートとして再現したのである。そうして、後年は、具体的な細部は削られ、エッセンスだけが凝縮されていく。まるで数十年後にフランスでおこる印象派を先取りするような。

 

展示構成に話を戻せば、最後から二番目の小さな展示室が彼の残した海のスケッチや水彩画だけを集めていたのも、とてもよかった。 油絵でみられる抽象的な表現が、スケッチの段階から何度も何度も彼のなかで繰り返されていることがわかる。そうした積み重ねが、より大きなキャンパス、油彩という画材に挑んだとき、結実するのだろう。

 

ちなみに、わたしが思い込んでいた海事資料とターナー絵画の並列だが、展覧会のリーフレットでちゃんと試みられていた。 リーフレットを開けば、展示されたターナー作品の写真の隣に、それに関連する資料、たとえば、漁船のための水先案内のランプとか、ネルソン総督が着ていた軍服とかが、並んでおり、常設展示室のどのギャラリーにいけばそれがあるかも書いてある。 さりげない誘いである。

「ターナーと海」展 のホームページ

 


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