ヒロシマ・ドレスデン・ナガサキ:テートモダンでの写真展

テートモダンで、「ヒロシマ・ドレスデン・ナガサキ」というタイトルの写真展を観た。

都市の名前をみれば、戦争を描いているのだろうと検討がつく。

そのとおりである。

ただし三都市だけではない。

およそ写真というものが生まれて以来、地球上のあらゆるところでおきた戦争をテーマにしている。

古くは、アメリカ南北戦争やクリミア戦争から、近年のイラクやアフガニスタンでの戦争まで。

戦争直後の様子だけではなく、時間を経たあとにも残る傷をも追いかけている。

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構成も面白い。

よくあるように各戦争毎に、スペースをわけるのではなく、

紛争直後、1週間後、数ヶ月後、1年後、3年後、10年後・・・99年後という、

出来事がおこってからの時間の距離によって、展示を構成している。

だからひとつの展示室のなかに、第一次世界大戦やボスニア戦争、湾岸戦争などが隣り合わせに並ぶのだ。

 

紛争直後をテーマとした展示室での、非常にショッキングなこの世のものとは思えない映像から始まり、

紛争に巻き込まれた被害者の生々しい傷や記憶、

やがて、修復された表の顔の裏に、今も亡霊のようにいやされぬ土地や集団としての記憶へと展開していく。

 

たとえば、見渡す限り広がる土地に、一本の道が走っている、ただそれだけの風景が、その荒涼さゆえに力をもって訴えてくる。

あるいは、当時の証言を集めたアーカイヴの冷たい書棚が並ぶ図書室 - これまで開かれることのなかった記録-白黒の写真はその沈黙の深さを物語る。

忘れたいものを忘れてなるものかと、つきさしてくるカメラの目だ。

 

もうひとつ興味深かったのは、このタイトルにも現れている事である。

イギリスにとって、タイトルの三都市は敵地であった。

ヒロシマやナガサキは、間接的であったし、人道的な内省も加わるから、同列に並べてはいけないのかもしれない。

だが、ドレスデンはちがう。

まさに英軍が先導して、徹底的に破壊した敵の都市、

しかも軍事的な施設があるわけでもなく、ふつうの人々が住む、当時美しいことで有名だった町である。

その被害の大きさをとらえる冷静なまなざしは、加害者自身であり、この展示をみる多くのイギリス人につきつけてくる。

それは、大多数の人にとって、直視するに堪えない事実に違いない。

戦争を扱う表象で難しいのは、この加害者としての自らをみる視点ではないだろうか。

 

ほかにも、これまでにはとりあげられなかった視点からの紛争が語られる。

たとえば、強烈だったのは、第一次大戦で、同盟国軍からの脱走兵が同胞の兵士によって処刑された史実だ。

処刑が行われた場所で、処刑が行われた時期やその時間を選んで、

その風景、その空気をとらえようとする。

とても重々しくて避けたい過去を、人間の脳にかわって写真というメデイアが淡々と記憶していくのである。

逆に、それが行われて99年経った今だからこそ、浮かびあがらすことができた事実であり、

そのことを埋もれさせてはいけないと、後世のカメラマンが誠実にその過去に向かったからこそ、印画紙に刻むことができた作品だ。

 

この展覧会は、第二次世界大戦終結の70周年を記念する、実に挑戦的なテーマだった。

この70という数字には、ふつうのメモリアル以上の意味あいがある。

それは、自らの体験をもった最後の人々が、まだ直接的な記憶を語ることができる数字だ。

普通はドキュメンタリーというジャンルにはいる対象を、現代美術の美術館が挑戦したという意味でも、興味深い展覧会だった。

 

DSCN0745

(基礎情報)

Tate Modern

「Hiroshima Dresden Nagasaki」

3/15 まで


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