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文化を主としたロンドン現地ガイドツアー
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スコットランドのアイデンティティーと小さなミュージアム

12日間の北スコットランド旅を終え、ロンドンに戻る飛行機の中でこれを書いている。

旅行中、様々なところで、青地に白いバッテンのスコットランドの旗を見かけた。

行政機関の施設とかサッカー場とかではない。一般の家が掲げているのである。

スカイ島の宿では、キッチンにあった全てのマグが「YES」キャンペーンの記念のものだった。

vote yes mag のコピー

「YES」キャンペーンとは、一昨年に総選挙が行われた時の「スコットランド独立運動」を支持する運動だ。

あの時は、わずかな差で、UKからの独立にはならなかったけれど、熱い思いはさめておらず、

つい1ヶ月ほど前に行われたUKの総選挙の結果に大きく影響する事になった。

ロンドンの国会でスコットランド国民党(SNP)が大きく議席をのばし、スコットランドでは強いはずの労働党が反対に大敗したのである。

旅をしがなら、スコットランド独立への夢はけっして消えていない事が実感された。

 

ところが、オークニー島を旅していると、スコットランドの旗の他に、見かけない旗をよくみた。

オレンジ色の地に、黄色と紺の十字の旗である。ノルウェーの国旗に似ている。

でも、いくらヴァイキングの時代が長かったからといって、ノルウェーの国旗をこんなにみるはずもあるまい。

あとでわかったのだが、その旗は「オークニー島」の旗なのだ。

ここは、やはりイングランドでもスコットランドでもない。

Orkney flag from haroubour のコピー

 

スコットランドに住む人々がすべて、「スコットランド人」というひとつのアイデンティティーをもっているわけではない。

スコットランド本島でも、西半分はもともとケルト語を話す「スコット人」のエリアであり、

東半分はその歴史背景から、ヴァイキングの血がはいった「ノース」人のエリアなのだ。

町の名前の響きだって、東と西では違う。

オークランド島では、教会に掲げられた家紋やフェリーのロゴ、土地のアーティストがつくるジュエリーのデザインなどに、

ヴァイギングのイメージをみかけた。

St Magunus church St Olaf のコピー

vicking ferry のコピー

また、今回旅した厳しい自然をもつ北部は「ハイランド」と呼ばれ、

よりイングランドに近く比較的穏やかな風土をもつ南部の「ローランド」とは区別される。

スコットランドでは、言語や人種、地域という大きな括りだけではなく、

さらに、「クラン」といわれる家族(氏)や土地との繋がりが強い。

よく知られる「タータンチェック」は、クランによって色や縞のパターンが異なる(クランタータンは比較的新しい伝統ではあるが)。

いわば、アイデンティティーの象徴だ。

 

ところで、ハイランドをドライブしていた時、石造りの伝統的な家の廃屋をあちこちで見かけた。

また、「ハイランド・クリアランス」という言葉をよく耳にしたが、それら廃屋はクリアランスの結果だと後で知った。

「ハイランド・クリアランス」とは、18世紀におこった暗い過去で、

簡単にいえば、その土地の地主たちが、自分の土地から効率的に利益を得るために、その土地に住む小作人たちを強制的に追い出した出来事である。

単にそれだけで説明する事もできないようで、その背景には、長年にわたる不作や人口の集中などがあったのだが、半ば強制的な追い出しがあった事実も見逃すわけにはいくまい。

土地を追い出された人々は、新世界であるカナダやオーストラリア、ニュージーランドに向かって、新しい生活と新しいアイデンティティーを立て直さなくてはならなかった。

ハイランドも北の端、Strathnaverという村 にその「ハイランド・クリアランス」をテーマにしたミュージアムがある事がわかり、訪ねることにした。

小さいし、お金もかかってないけれど、とても興味深いミュージアムだった。

まず、セッティングが面白い。ミュージアムの建物は、実は、この地区のかつての教会だ。

Strathnaver Museum のコピー

教会といえば、昔はコミュニティーの精神的な中心だ。

教会墓地は、今もその建物の周りにあって、たくさんの墓碑が並んでいる。

墓石に「マッケイ」さんという氏をたくさん見かける。マッケイというクランのひとびとなのだ。

ミュージアムの中には、かつての土地の人々の暮らしぶりがわかるコーナーのほかに、

「クリアランス」がおこった背景や、実際に起こった出来事、その影響などを説明したコーナーがあるのだが、面白いことにその展示をつくったのは地元に住む子供たちである。

childrens panal のコピー

現代のアーティストがこの村の歴史や風土に触発されてつくった作品も並んでいる。

あるいは、ファミリーヒストリーの調査サービスがあったり、アーカイブとしての役割も果たしている。

 

ミュージアムのそばにあるカフェで休憩をしていたとき、他のテーブルでの会話から次の事がわかった。

追い出された人々の子孫たちが、自分たちのルーツを探して、このミュージアムと墓地にやってくるのである。

また、旅の間、スカンジナビアからの旅行者ともたくさん出会った。彼らにとっても文化的なつながりの深い土地なのだ。

 

スコットランドでおこったアイデンティティー運動は、世界中に同時派生的に出ている感情的なムーブメントだと思う。

この青字に白のバッテン旗に触発されて、オークニー島でもあのオークニーの旗が掲げられるようになったのではないだろうか。

それは、世界規模でおこっているグローバリゼーションと切っても切り離せない社会現象に相違ない。

今回の旅行は、ロンドンから見ていては見えないような、土地と風土と歴史と文化と人々の繋がりを、

身体的に実感できたという意味でも、とても有意義な旅だった。

 

実は、仕事の縁があって、いったんロンドンに戻って4日後には再び、スコットランドに戻ってくる。

その時は、スコットランドの都エジンバラ、そしてローランド地方を拠点に動くことになる。

そこで訪ねるつもりの大きなミュージアムの展示をみながら、あるいはローランドの風土を感じながら、

スコットランドのアイデンティティーについて、もう一度考えてみたい。

Scotish flag のコピー