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ぶさいくな王:ゴヤの肖像画展

ロンドンでは、近年肖像画に焦点をあてた展覧会が多い。

ナショナルギャラリーでは今、ゴヤの肖像画をテーマにした特展をやっている。

-ご存知のように、18世紀後半スペインを代表する画家だ。

描かれた対象のほとんどは言うまでもなく王侯貴族、スペイン風の豪華な衣装をつけた高貴な方々である。

 

そんな中、ぷっと吹き出したくなるユニークな顔にもいくつか出くわした。

こんな顔を描いて、モデルから何も言われなかったのかと心配したくなる面さえある。

これが、イギリスのほぼ同時代の肖像画家、ジョシュア・レイノルドだったら、きっと、もっと美しくしあげただろう。

逆に言えば、ゴヤは、パトロンをけして美化しない正直な人だった。

だが肖像画に焦点をあてた展覧会をみていくうちに、そのぶさいくな顔が、

この画家の「黒い絵」の時代の、人間社会の暗部を描く画風にも重なった。

 

ゴヤといえば、わたしが好きなのは、

ナポレオン軍によるスペイン民衆の虐殺を描いた「マドリード、1805年5月3日」や「巨人」などの、

人間の悪を抉り出すような絵や、その愚かさをユーモラスに描いた小品だ。

民衆の生活や当時の社会全体に目を注ぎ、鋭い観察力でそれをアートとして表現した、画家が聾になってから暗黒の世界で制作した作品。

彼が尊敬してやまなかったベラスケスと一線を画す独自の芸術表現だ。

今回の展覧会の中心は王侯貴族の全身像を描いた立派な肖像画、いわば彼の表である。

画家としての名誉と生活の糧を得るための、ゴヤの表の顔だ。

 

わたしのように、暗黒を描くゴヤに興味がある人にとっては、

今回の展覧会はつまらないかもしれない。

解説が極端に少なく(ありすぎるのも、困りものだが)、その点も展覧会のつくりこみが弱いと思う。

だが、その王侯貴族たちの顔のなかにも、

ゴヤらしい真実を追究する観察眼があること、

ある種のユーモアをこめてモデルの人間臭さを正直に描いている事を知り、その意味で表に裏がかさなって面白い。

 

表裏でいえば、この展覧会で一点気になった小さな小品があった。

表には、ナポレオンを倒し、スペイン王室にとっては恩人である、英国軍人ウェーリントンを描いた小さなスケッチ。

その裏には、友人を描いたチョークスケッチ。

Friar Juan Fernández de Rojas

簡単なスケッチだけれど、

眠っているのか、死んでいるのか。いや、きっと死んでいるのだろう。なぞめいた魅力ある絵だ。

死の床の古い友人を描く観察力とタッチは、

まちがいなく、あの「黒の絵」の手になるものだった。

 

下の絵は、重い病気になった時のゴヤの自画像 (Friar Juan Fernández de Rojasとは異なる)

07.SelfPortraitwithDoctorArrieta

 

 


 

このブログは、アートローグのディレクターによって書かれています。

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