箱が違えば中身も違って見える:デュッセルドルフ K21 美術館

美術館建築物のレイアウトが違えば、そこに展示された作品のひとつひとつ一が違って見える。

たとえば、NYのグッゲンハイム美術館はユニークな建物外観で知られるが、実は内側も面白い。

建物中央に螺旋状の巨大なスロープがあり、来館者はまず一番上にのぼり、スロープに沿って降りてくる。

作品はスロープの外側の壁に並んでいる。

だから、壁に掲げられた近代アートは、スロープによってつくられた「ある流れ」の中で鑑賞することになる。

 

この夏、ドイツはデュッセルドルフの現代美術館「K21」を訪れた時も、

建築の構造が鑑賞に与える影響を考えさせられた。

同時に、美術史において、作品の表現形態や規模が変化していくならば、それを容れる器の構造も変化する事に気付かされた。

 

K21の建築物は、19世紀にできた箱形の建物で、とりたて目新しいものではない。

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だが、一歩中にはいれば、控えめだが「新しさ」が加わっている事に気付く。

オリジナルの建築物は回廊状で、以前はここに中庭があったのだろう。

それが現代美術館として改築された時、

中庭部分にガラス張りの天井がとりつけられ、

かつての地面は石のフロアーになって、美術館のインフォメーションデスクやショップが設置されたのだ。

 

肝心の展示室は建物の上階にあって、もとの回廊に沿って並んだ部屋が充てられている。

ひとつひとつの部屋は、ひとりのアーティストの作品だけで構成されている。

その多くは、空間全体を作品化した「インスタレーション・アート」だった。

例えば、「アントニー・ロー」の部屋では、床全部に鏡が敷き詰められ、壁には映像が映され、それが床に反射している。

中央部には階段がしつらえられていて、そこを歩く事ができる。来館者はそこで不思議な映像の世界を丸ごと体感するのだ。

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「ヒッシュホーン」の部屋は、おどろおどろしいマネキンやペットボトルや巨大なチェーンが埋め尽くしていた。

大災害の後のような空間に身をおくことになる。

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もちろん、すべてがインスタレーションではなく、写真や絵画などの平面作品もあった。

だが、ひとつの部屋が一作家による作品で占められているので、結果的に、ひとりの作品世界に入り込む事になる。

 

このような構造の美術館ができたのは、1970年代以降、美術作品の規模が大きくなり、

インスタレーション作品が増えてきた事と深く関わるに違いない。

確かに、他のアーティストの作品とじかに見比べたり、関係性を見いだしたりは、難しいかもしれない。

だが、わたし個人はその動きを好意的に受け止めている。

あるひとりのアーティストの作品をちゃんと理解しようと思ったら、

そのような規模で、しかも閉じられた空間の方がわかる場合が多いからだ。

 

わたしが訪れた時、K21では、トーマス・サラセノというアーティストの特別展示をやっていた。

だからといって、特別展示室というのが設置されているわけではない。

どこかというと、かつて中庭だったところの空にはられた大きなガラス屋根の下である。

彼はそこに巨大なネットをはって、中にメタルな巨大風船をいくつもおいた。

なんと、そこは人々が歩き回る事ができるようになっている。

下から見れば、まるで宙を歩いたり、這ったり、泳いだりしているように見える。

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それだけみると、なんだサーカスかアミューズメントパークとどこが違うのよと、(高所恐怖症の)私は否定的にみてしまうのだが、

先ほどの小さな展示室にも彼の作品の部屋があって、ほほうと思った。

暗い部屋のあちこちに、キラキラ光る糸が張り巡らされたケースがおいてある。

ひとつのケースに近づいて、よく見ると糸は蜘蛛の糸だった。

建物の天井全体を使ったシルバーのネットは、なるほど、そのメタファーだったのだろうか。

ということは、天井を歩く人々は、蜘蛛の餌食なのだろうか。

みなさん、楽しそうに餌食になっている。

なかなかのブラックユーモアである。

トーマス・サラセノもひょっとしたら、高所恐怖症なのではと、私は、勝手に解釈した。

K21 公式ホームページ

 


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