展示に意味を与える建築 1:ジョンFケネディー・ライブラリー&ミュージアム

ミュージアムの建築や立地環境が、展示の内容やコンセプトと融合する―そんなケースにこれまで何度か出会いました。今回のアメリカ旅行で訪れたJFKミュージアムもそのひとつ。建築を手がけたのは、中国系アメリカ人のIMペイ―ルーヴルのガラスのピラミッドや滋賀県のMIHOミュージアムを創った人です。

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大西洋を臨むミュージアムに着いた時の最初の印象は、正直なところさほど心に響くものではありませんでした。ガラスと幾何学模様の骨組みというIMペイ独特のスタイルが窺えたのですが、全体的なバランスがどことなく野暮ったく感じられたのです。

でも、展示をひととおり見終わったとき、その建物全体がミュージアムでの体験をより膨らませ、同時に静かに過去と現在を振り返る場を提供する空間になっていたことに、はっとさせられました。それは、建築だけではなく展示フローとのコラボレーションのなせる業なのかもしれません。順にお話しましょう。

ミュージアムの展示は、ジョンFケネディーの生涯と社会的なレガシーをシンプルに追うナラティヴ構成になっています。イントロダクションでは、大統領選に挑む若いケネディーを描いた当時の映像を見せてもらい、シアターをでると映像の続きがそのまま再現されたかのような展示コーナーに導かれていきます。当時の物質文化やテレビ討論、新聞報道などが展示され、まさに60年代アメリカの街頭にタイムトラベルしたような感じです。そして、大統領就任演説を聞くベンチへと流れていく。

場がガラッと変わると、白亜の柱に赤じゅうたん、シャンデリアで飾られたホールに立っていることに気付くでしょう。ホワイトハウスに招かれたってわけ。そこでは、当時の冷戦の状況や、フルシチョフやカストロとの核ミサイルをめぐっての固唾飲むやりとり、外交戦略、宇宙開発、ホワイトハウスでの家族の生活・交友関係などが語られる。そしてまた暗転。グレーの壁には「November
22 1963」という文字、速報を報じる当時のニュース画面が流れるだけで、他の情報はいっさいなし。暗殺の日です。照明がふたたび明るくなると、資料室的な部屋-彼が残した影響について語るさまざまな声で構成された展示室へと繋がって行く。そして重い扉を開けると、吹き抜けの大ガラスの空間、青い海に面したホールに吸い込まれ、我に返る。

この演出は象徴的です。ボストンで生まれ、ヨットを趣味とし、海を愛したジョンへのパーソナルな回想であり、短期の就任ながら、キューバ危機という大嵐を乗り切った船長としての大統領への回想でもある。実物や写真や映像を見たあとで、ただ目の前に海が広がるだけの巨大な空間にたたずんだ時、ケネディーがあの時の大統領でなかったら、今の世界はどうだったのだろうと振り返っていました。彼ひとりの尽力ではないのは承知のうえで、それでもなお。

 ところで、個人的に言うと、「物語」を描く展示は分かりやすさがある半面で、気が引けてしまうことがあります。安易にのっかれるだけに、創られた語りに少し懐疑的になる。特に伝説的に英雄扱いされ、パワーのある人物を描いた場合は、肯定的な側面ばかり見せられがちで、違う視点からみたら、どうなのて思ってしまう。わたしが素直じゃないからかもしれないし、政治に疎くてきちんと検証することもままならないから余計に不安になるのでしょう。

 それでも、このミュージアムは、押し付けがましさがあまり感じられず、すんなり流れのなかにはいっていけた。つくられたルートがうまくデザインされ、個々の展開に適度なバランスとリズムがあったからかもしれない。パーソナルなものやおこった事実、ケネディーやジャックリーン夫人の言葉がただ淡々と並べられ、後世による解釈が抑えられていたからかもしれない。パンフレットには、これは国が建てたのではなく、世界中からのプライベートな献金によるものだとある。おそらくそれも関係するのではないでしょうか。

いずれにせよ、「物語」展示の弱点をよく踏まえたうえで、その長所を生かし丁寧につくられた展示でした。そして、あの最後の空間が閉塞的になりがちなナラティヴを解放し、ケネディーという歴史上の人物と現在の社会との関係について、来館者ひとりひとりが思いをめぐらせる、そんな空間を提供していたからだと思うのです。

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展示に意味を与える建築―このテーマでは掘り下げたいと思う事例が他にもいくつかあります。いずれまた、ご紹介できれば。

このミュージアムのことを教えてくださったMさんに感謝します。

John F Kennedy Presidential Library & Museum, Boston

 


 

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