陰鬱なテーマパークから明るい未来へ:バンクシーのディスマランド

2015年初秋、イングランド西海岸のある寂れたリゾート地に、突如としてテーマパークが現れた。

その名も「ディスマランド Dismaland」という。

Dismal=陰鬱な、みじめな、気がめいる ・・・ という英語がひっかけてある。

ロゴやポスターから 「ディズニーランド Disneyland」を皮肉っているのがすぐに読み取れる。

明るく、笑い声に溢れ、夢のようなアミューズメントパーク、ディズニーランドとは正反対のイメージを前面におしだしているのだ。

 

気のめいるようなこのテーマパーク、5週間限定の開催なのだが、大変な人気で、チケットをとるのは至難の業だ。

人気のひみつは、チケットがたったの3ポンド=600円ということもあるが、

このテーマパークを手がけたのが、世界的に有名なストリートアーティスト、あの覆面のBanksyだからにちがいない。

運よく、チケットをとれたわたしたちは、ブリストル郊外にあるかつてのリゾート地 Weston-Super-Mareを目指した。

 

駅を降りて、小さな町中を15分ぐらい歩くと、海からは冷たい風が吹き、向こうの方に暗雲がたちこめていた。

まさに、Dismaland日和。

Dismalandの看板がかかった正面建物(ゴチック建築の廃墟)にはいれば、

いきなり、セキュリティーチェックを通ることになる。

スタッフたちは、ミッキーマウスの耳をつけて、不快な顔つきでわたしたちに近づいてきた。

セキュリティーチェックの機械も、大きな無線機も、拳銃もすべてダンボールでできている。

一緒にいった友人など、チケットを破られ、いきなり口のなかにチケットをいれられたのだそうだ。

どの来場者にもこんな対応をしているのだろう。

実はこれは、カナダ人アーティスト、Bill Barminskiの作品で、

テーマパークの商業主義/ポピュリズムと現代の管理社会を皮肉っているのだ。

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そこを通過すると、ハワイアンがどよーんと流れ、枯れかけたやしの木が植わっている。

今やすっかり荒廃したリゾート地。

その荒れ果てた様子を逆に利用して、テーマパークができている。

正面には、お化け屋敷のようなシンデレラ城が聳え立ち、城を囲む池には、警察の車がひっくりかえっている。

その警察の放水車からでた水が噴水というわけだ。

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薄暗い城の中に入ると、いきなりたくさんのフラッシュがたかれてびっくりしてしまう。

カメラマンたちのレンズの先には、なんと、かぼちゃの馬車がひっくり返り、そこからシンデレラが仰向けに放りだされている。

すぐにあのダイアナ妃の事故とパパラッチたちの事と結びつくに違いない。

これはBANKSYの作品だ。

 

その脇では、釣竿でアヒルのおもちゃを釣るコーナーがある。

水は黒々とし、その中心には全身油まみれになったペリカンがいる-もちろん、いいたい事は、石油会社の油漏洩による自然環境破壊。

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ボードの穴から顔を出し、なにかに扮装して、写真をとるコーナーでは、

ボードには、二つのアナがあるだけで、なにも描かれておらず、ただ、「SELFIY HOLE=自画撮り穴」とある。

みんな喜んで自画撮りしていた。

自分を茶化すことが、ユーモア精神の根っこだと思う。

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別のコーナーには、まさに今の惨事。

大きな水槽の中に、たくさんのおもちゃのボートが浮かんでいて、どのボートも避難民たちで溢れているし、水の中にはぷかぷか浮かんでいる人もいる。

来場者はそのボートを操縦できるようになっているのだが、コントロールがぜんぜんきかない。

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テーマパークが設置された廃墟自体がそもそも惨めだが、

会場内にいるピンクのユニフォームのスタッフたちも、決して笑うことはない。

作品が扱うテーマも

- 避難民問題、グローバル化、商業主義、管理社会、消費社会、警察や軍をめぐる権力問題、イスラム社会の問題・・・

暗澹とした現代社会の様々な問題だ。

そこには、Banksyたちストリートアーティストらしい、批判精神が徹底してみなぎっている。

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とはいうものの、内外のアーティストによる様々な「アート」をみて、ああ、やられたーと思ったものは、正直2-3点しかなかった。

ある美術評論家がいうように、どこか薄っぺらで、直接的すぎるからだろう。

だが、それはひとつひとつの作品についての印象で、

Dismalandが面白いのは、

むしろ、このテーマパークそのもの、見捨てられたメランコリックな環境、そこに都会から足を運ぶ人々、私自身も含めて、全体でジョークを作り出していたことだ。

 

当日見逃してしまったテント(長い列ができていたので断念した)があった。

後で知ったのだが、そこでは、皮肉をこめた社会批判のポスターが何千枚と売られていた。

ポスターには、イギリスのバス停の広告塔をあける鍵がついている。

わたしたちが訪れた翌日、ロンドンの地下鉄やバス停が、そのポスターに差し替えられたというニュースが流れた。

色鮮やかで目をひく写真やコピー文をつかい、いっけん、普通の商業ポスターのようにみえて、

よくよく読むと、体制批判の内容。

例えば、

イギリス製の大量の兵器がイスラエルに売られ、ガザ地区の市民がいかに大勢、殺されたかを告発するポスターだ。

ちょうど、ロンドンの見本市で「軍兵器関連のものが取引されるフェアー」がオープンしたばかりで、それにあわせたらしい。

そういう見本市があるなんて、おおっぴらに宣伝なんかしないから、

ロンドンの人々はほとんど無知で、そこにきっと効果的な気付きを与えてくれることだろう。

 

差し替えた張本人は、Dismalandのテントでポスターをかった普通の人たちだ。

なかには、マクドナルドのマックの広告が、子供が描いた自然いっぱいの絵になっていた。

「毎日、息子が学校にいくバスを待っていると、こういうジャンクフードの広告をみて、興味をひくんだ。

糖尿病になるんじゃないかとひやひやだよ。

だから、マックの広告をとって、息子の絵にさしかえたんだよ。この方がずっといいだろ?」

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こういう行為はむろん違法だ。

興味深いのは、そうやって、市井の人々が、突然ゲリラのストリートアーティストになったこと。

そういう行為を支持する人々が大勢いることだ。

今までなら「プロ」のストリートアーティストにまかせていた。

自分自身がこういう行為をしたのは、もちろん愉快犯的な要素もあるだろうけれど、

今すんでいる世の中が絶対に変だと思うから、敢えて行為を起こしたに違いない。

その奥には、やはり現状の政治に対する鋭く、胸のすくような批判精神がある。

 

Dismalandが、西海岸の寂れたリゾート地の短期のイベントに終わるのではなく、

それがロンドンにも飛び火して、草の根の、また今までにないような表現、特定のアーティストではなく、普通の人々が自主的にする表現する行為に広まった事自体が、たいへん興味深い。

 

ブリストル育ちのBanksyは、もともとグラフィティーをやっていた。

グラフィティーは、仲間にだけ向けた表現活動だ。

ストリートアートはもっと一般の人を相手にする。

美術館に行くようなちょっと高級趣味の一握りの人々だけではなく、町に生きる、町を歩く人々に向けて表現している。

Dismalandには、子供から高齢者、車椅子の人々・・・あらゆる人々がきていた。

驚く事に、学校からの子供たちの団体もいた。

ロンドンからわざわざやってきた現代美術館に行くようなおしゃれな人たちもいたけれど、来場者の多くは普通の人々だった。

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Dismaland 今月27日まで (当日朝一番に並べば、ひょっとするとはいれるかもしれません)

公式ホームページ

www.dismaland.co.uk

 


 

このブログは、アートローグのディレクターによって書かれています。

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