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文化を主としたロンドン現地ガイドツアー
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ある英国人コレクターの生き方

「ハリー・クラーク」というアイルランド出身の挿絵画家・ステンドグラス作家をご存知だろうか。ビアズリーのような幻想的な作品をつくる20世紀初頭のアーティストだ。先日、美術本の出版社から依頼を受けて、彼の作品をたくさんもっているコレクターに会いに、コッツオルズ地方のある小さな村に行った。

目的は撮影とコレクターへのインタビュー。私の仕事は日本から来英された編集者と写真家の方をご同行し、通訳と双方のコーディネートをすることである。

ハリークラークの作品をまじかでみた幸運はいわずもがな、コレクターであるマーティンさんの生き方にも興味を覚えた。
アーティストについては、本が出版される時までお預けすることにして、今日はぜひ、そのマーティンさんの事をお話したい。

メールや電話での事前打ち合わせからは、少しシャイな、また朴訥とした初老の男性という印象を受けていた。
コレクターさんには気難しい人がけっこういるので、やりにくい人だったらどうしよう・・・。でも、その印象は半分当たり、半分ははずれだった。

ロンドンから2時間、列車はStroutという小さな田舎駅についた。車で迎えに来てくれたマーティンさんは、上背のあるしっかりした体格の持ち主で、ジーパンにTシャツ、皮のジャケットというカジュアルなスタイルである。初老の男性というイメージはみごとに覆された。でも、内気な性格は、会った瞬間にも感じられた。

車は、すばらしい風景の広がる田舎道を抜けていく。マーティンさんから教わるまで、ここがコッツオルズの端っこだなんて思いもよらなかった。

コッツオルズは有名な観光地だが、実はかなり広範囲に広がっている。ここまでは旅行者も足を伸ばさない。

とても静かな美しい村である。

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しばらくすると彼の家についた。坂になっている広いお庭をおりていくと、石造り(コッツオルズの有名な蜂蜜色の)の小さなコッテージがある。マーティンさんの家だ。

この家は実に築250年(イギリスではごく普通なのだが)。マーティンさんはロンドンで仕事をしていた30年前にこの家を買って、リタイアした今はここに住居を移したのだという。

けっして大きくはない。家の中には、古いポスターや額にはいった版画やさまざまな置物など、いろいろな「もの」がところ狭しと置かれている。いかにも、コレクターさんの家という感じ。整理整頓されているとはとてもいえないけれど、それなりにリラックスできるアットホームな空気がある。

撮影には、ライティングのためのスペースがいるので、キッチンスペースを占領させてもらうことになった。そこで、10冊の本の挿絵、20ばかりの版画や水彩画作品などなどを撮るのである。スペースにゆとりがないため、マーティンさんの本棚や壁から作品を随時だしてきては、撮影し、またしまって、新たらしいものをだしてくるという手順だ。

マーティンさんはそのあいだ、二階で仕事をしながら、60年代・70年代のロックやジャズをずっと流していた。そうか、その世代なんだよな。家の雰囲気から、どうやら一人住まいであるらしい。男の一人住まいって事なら、きちんとしている方かもしれない。

マーティンさんは、こちらの仕事にはほとんど干渉しなかった。

「触らせてもくれないコレクターさんもいるんですよ」。

そう教えてくれたのは、コレクターの家で「もの」を撮影してきたキャリアをおもちの写真家、北郷(ほんごう)さんだ。

かといって、「お客さん扱い」されているわけでもない。でも、だからこそ、とてもリラックスして仕事をすることができた。いっしょに音楽を聴きながら、マグカップの紅茶を片手に。

ランチの時間には、すぐそばにあるパブに連れて行ってくれた。直営の農場からの肉や庭で採れた野菜を使った料理をだしてくれるらしい。

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ハリークラーク本の編集者、写真家とマーティンさん

外の景色を見ながらのランチは格別美味しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ランチの時間、互いに話が弾んだ。そうか、シャイなマーティンさんもリラックスしてるんだ。自分のコレクションが本になって、日本のみなさんに紹介されるなら、嬉しくないはずがないもの。

近所にとても素敵な教会があるという。なんでも、あのウィリアム・モリスが会社としてはじめて注文を受け、内装を手がけた教会なのだそうだ。

「美術史的にも重要な教会なのに、あまり知られていないんだよ」と、マーティンさん。

今日のうちに仕事を終わらせる事が最優先だったが、ランチの後、マーティンさんはどんどん歩き進んで、彼についていったわたしたちは、なんとその教会の前に立っていた。 実にラッキーな予想外だ。

緑の丘を見下ろすかわいらしい教会で、中に入れば、モリスだけではなく、バーン=ジョーンズやロゼッティが手がけた美しいステンドグラスが迎えてくれた。

下は、写真家の北郷 仁(ほんごう じん)さんが撮られた写真。ご親切にも掲載の許可をいただきました。

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(C) 北郷 仁 撮影。ウィリアムモリスのステンドグラス

思いがけず豊かな時間をもらった私たちは、ついでにエネルギーももらい、そして、もちろんプロの写真家の方の仕事ぶりのおかげで、無事にミッションを終えることができた。

一日、マーティンさんの家の中で和やかに仕事をさせてもらい、ふと、この人の生き方が見えた気がした。

決してお金持ちではないけれど、そして、家族もいるわけはないけれど、好きなものだけに囲まれて、好きなことだけをして、自由に生きてきたのだろう。

ハリークラークも、ほかの画家たちも、ロックやジャズの音楽も、丘を望む素敵な庭も、そこにある小さなベンチも、近所の美味しいパブも、あの小さな教会も、そして静かな美しい村も・・・

みんなマーティンさんのかけがえのない宝なのだ。

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マーティンさんと私

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハリークラーク Harry Clarkeの本は、東京の出版社パイ・インターナショナルから、2014年9月に日本で出版、2015年には英語版で出版の予定です。


 

 

 このブログは、アートローグのディレクターによって書かれています。

アートローグは、ロンドンを拠点にユニークな文化の旅や日英のミュージアムコーディネートの仕事をしています。

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