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身体への賛美:古代ギリシア美術・大英博物館

一生の思い出に残るような特別展示を観た。

大英博物館で開催中(2015春夏)の古代ギリシア美術展「Defining Beauty:the body in ancient Greek art」である。

副題どおり、彫刻作品を中心として「ボディー」に焦点をあてた展覧会だ。

 

最初の展示室で迎えてくれたのは、うづくまるアフロディーテや円盤投げ選手など4体の像。

どしょっぱつから心を奪われてしまった。

身体全体のバランスも、そのボリュームも、ポーズも実に美しい。

背中の線も、臀部のえくぼも、指に浮き出た血管も、ひと房の髪も、うすく開いた唇も、

どれをとっても美しい。

彫刻によって縁取られた部屋の空間全体までが、引き締まってみえる。

 

古代文明のなかで、ギリシアだけが、人間の裸体に美を見出したのだという。

身体の各部のバランスや腕の角度、頭の傾き、すべて数学的な美しさにのっとっているのだという。

直感でとらえる美しさは、その計算された幾何学からくるのか・・・。

 

一体一体の展示物だけではない。展示のしかたもよく考えられていた。

周囲を回りながらさまざまな角度から堪能できるだけでなく、

4体が響きあうように、それぞれの位置や高さや照明が考慮されている。

展示全体の構成も内容もすばらしい。

感心した事のひとつは

ギリシアが他地域の美術からどのような影響を受けたのか、その影響をいかに独自に展開させたのか、あるいは作品づくりの根本にある考え方の相違は何かなどをわかりやすく、紐解いていることだ。

たとえば、古代エジプトの青年立像とギリシア初期の青年像を並べて、

古代エジプトを手本にして、一歩を踏み出す立像をつくるかを学んだ事、

古代エジプトの場合、立像の裏側には支柱があるだけだが、支柱を取り除いて、ちゃんと青年の背中やお尻をリアリスティクに表現する新しい挑戦がなされたことがよくわかった。

確かに、この特別展には大英博物館の常設展で見ることができるものがたくさん使われている。

でも、こういう構成だからこそ新しい発見があり、それは特別展示ならではだと思う。

 

セクシャリティーに対する古代ギリシアの独特な考え方もよく理解できた。

両性が入り混じったディオニソスやヘルマフォディトスなど、その崇高でエロチックなこと!

こ展覧会に2度目に足を運んだ時は、小像にも目がいった

ペニスを立て自分の胸にナイフをつきつけるAjaxの像など、そこには抽象的な奥深さがある。

 

最後に待ち受けていたのは、あのミケランジェロが絶賛した「ヴェルベデーレのトルソ」だ。

興味深いことに、この展示では、そのプロローグとエピローグに、いわばハイライトをもってくる。

そこからは、この展示をつくった学芸員の古代ギリシア美術に対する最大限の敬意が窺える。

最後の部屋のふたつの彫刻は、わたしたちの目の高さに展示されているのだが、

そのさりげなさにも、黒子としての学芸員の静かなしかし粋な演出が隠されているような気がする。

わたしも多くを語らず、これくらいで筆をおくことにしよう。

 

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