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大英博物館がメッカになった

○○のメッカといえば、あることにおける重要な場所を意味しますが、
本物のメッカは、周知のようにイスラム教最大の聖地で、教徒ならば一生に一度は訪れるべき巡礼の地。
サウジアラビアの西部に位置しています。

ここはロンドンの大英博物館。
そのチケット売り場に、イスラム教の帽子をかぶった男性やベール姿の女性が列をなしている。
メッカ巡礼をテーマにした「Haji: Journey to the heart of Islam」展が終盤を迎え、
ロンドンや近郊に住むイスラム教徒たちが、第二のメッカに集まってきたかのような勢いです。

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展覧会は、巡礼への道を象徴するかのような壁にそった暗い通路から始まります。
展示の前半は歴史的な考察。
巡礼の歴史は、預言者ムハンマド自身が行ったAD632年まで遡るのだとか。
宗教として確立されるにつれ、巡礼のための4大ルートが定まっていきます。

アラブ半島からのルート
アフリカからのルート
トルコからのルート
インドからのルート

歴史上の人物が行った巡礼の記録を交えながら、
それぞれのルートから、どんな人々がどのような旅をしてきたかを、展示は語ります。

わたしなど外部の人間は、イスラム社会をひとつで括ってしまいがち。
でも、展示を見て、歴史の深さは言わずもがな、その多様性に改めて驚いてしまいました。
周りを見渡しはっとしました。ここに見に来ている人々も実に多様なのです。
言葉も違えば、服装も微妙に違う。

そうして、メッカとは、7世紀の昔からさまざまな文化が出会う場でもあったのだと気付くのです。
だからこそ、派生的にさまざまな社会的活動が起こる。
そこで知識が交わされ大学ができれば、物々交換がなされ市場が活性化する。

展覧会の後半は、巡礼の目的地メッカでのさまざまな儀式に焦点があたっていきます。
現在の巡礼の様子や、イスラム系のアーティストによるコンテンポラリーな作品が並び、
巡礼を終えたあと、その経験を語るひとりひとりの言葉(オーラルヒストリー)で締めくくられる。
巡礼の経験を辿りつつも、空間と時間が有機的に織り成されたよくできた展示構成です。

もっと興味をそそられたのは、やはり人々の反応でした。
文化圏も異なれば、年齢層も幅広い。
若者がおじいさんおばあさんに母国語で説明する様子があちこちで見られました。
解説ラベルが英語で書かれているからです。
(英語以外の解説も考えられたかも、だけどそうするとあまりに多数の言語を考慮しなければならず、現実的には無理だったのではないか)

なかには、あるおばあさんが展示物に触れようとして、孫に止められたシーンにも出会いました。
「博物館」なんて西洋の文化施設に訪れたことなどない人もたくさんいたのではないでしょうか。
そういえば、メッカの黒いキューブの一角にはブラックストーンというのがあり、
巡礼者はそれに手を触れたり、キスしたりしようとするのだそうですが、
そういう文化背景と「博物館」という視覚優先のモダニズム文化との間に横たわるギャップにも思い当たります。

イギリスにはたくさんのイスラム教徒が住んでいます。
歴史を通して彼らとの摩擦は絶えませんでした。
特に、911やイラク戦争のあとは、深刻な社会的懸念になっています。
ロンドンでの2007年爆破テロも、まだ記憶に新しい。
いかに彼らを招きいれ、彼らの文化をともに表象していくのか、
大英博物館にとって、いや、すべてのミュージアムにとって、避けては通れぬ大きな課題なのです。

この展覧会で残念だったのは、
来館者が圧倒的にイスラムの人々で、西洋人があまりいなかったこと。東洋人らしきはわたしひとりだけだった。
人は自分を見に展覧会にやってくるのだからと、言ってしまえば身も蓋もない。
他者どうしが互いの文化を理解できるような展覧会にすることは、次なるステップなのでしょうか。

いずれにせよ、個人的には、イスラムの多様性やメッカ巡礼の意味を学ぶことができてとても得した気分です。

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by Idris Khan

 


 

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