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多様性を語ることVS来館者の体験:国立アメリカン・インディアン博物館

アメリカ国会議事堂の目と鼻の先に、エコ・ガーデンに囲まれたミュージアムがあります。国立アメリカン・インディアン博物館です。

スミソニアン・インスティチュート(ミュージアム施設群)のなかで最も新しい博物館(2004年設立)なのですが、コレクションにはスミソニアン博物館史の初期(19世紀後半)、西部開発の流れのなかで、インディアンの文化・歴史や生活用品が「近代的な」視点から精力的に収集されたモノがたくさんあります。

それらは、「人類学」とか「自然史学」の範疇にいれられる「標本資料」にすぎませんでした。当時の西洋植民者はネイティヴの文化を見下していたのです。では21世紀の博物館はどのように彼らを表象するようになったのでしょうか。

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常設展示は、Our
UniverseOur PeopleOur Livesというギャラリーで構成されています。ひとつの展示室内は、外壁と同じ流線的な壁で仕切られ、曲がりくねった通路の隙間には蛸壺のような空間がある。全体が有機的な感じです。蛸壺エリアではある部族のことが、中央では白人との出会いなど全体に共通するテーマが語られています。インディアンを統括的に描くのではなく、その多様性をさまざまな視点から語ろうとしているのです。

もうひとつの特徴は、古い顔と現在の顔を並べて紹介していること。たとえば、ある部族の伝統的な狩猟道具と、子孫たちが古い知恵にテクノロジーを加えている様子を並列して語る。昨今の民族系ミュージアムでは人々の今の様子を導入することが増えてきましたが、この博物館展示では、「現在」が展示の脇役ではなく、むしろ中心的な役割を果たしているのです。興味深かったのは展示づくりの最初からネイティブの人々が参画していること。展示ができた後もさまざまなアウトリーチが継続されています。

当館の目的は、ネイティヴの人たちとの「パートナーシップ」を通して、インディアンの文化、その「過去と現在と未来」について理解を進めることだと謳われています。常設展示室にOurという言葉が使われているのも頷けます。このように表象される者が主体的に表象の過程のなかに参加すること、また、過去だけではなく、現在の社会問題なども含め、将来への展望について語ることは、1980年代以降の欧米の博物館の方向性なのです。それは、自文化中心的なグランド・ナラティヴを見直すポスト・モダンの潮流がミュージアムにも流れているといえましょう。

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アパッチ族の展示パネル。展示づくりに関わった「地域のキューレター」たちが紹介されている。

その点、日本はまだまだたち遅れているといわざるを得ません。この博物館の存在は、日本でいえば東京上野に在日韓国人あるいはアイヌの独立したしかも国立の博物館があることと同意だからです。

東京にも在日韓国人の博物館がありますが、それらは在日のひとたち自身がつくったという意味で、確かに重要な社会的役割をもっています。しかし、その存在が日本の内外にもっと周知されてしかるべきなのではないでしょうか。

アメリカン・インディアン博物館に話を戻しましょう。博物館が従来の表象を自省的し、より民主的な開かれたアプローチに挑戦していることは評価されれべきですが、ここにはジレンマがあることも認めなければなりません。DCで出会った人々は、みなさんアメリカン・インディアン博物館をあまり評価してはいなかった。

「沢山ありすぎてフォローできないのよね」「散漫な印象しか残らないんだ」「ホロコースト・ミュージアムはひとつの物語がはっきりしていて、深く感動するけどね」

彼らの批判の要因が展示構成にあることは明らかです。ホロコースト・ミュージアムとは同じMall地区にあり、とても人気があるのですが、以前ご紹介したジョンFケネディー・ミュージアムと同様、ひとつの流れをもつストーリー展示を採用しています。当館を見学した折、他の訪問客を遠目に観察していたのですが、ほとんどが展示を鑑賞することというより、あてどなく歩き回っている様子でした。

この利用者の批判は、インディアン博物館のミッションと真っ向からクラッシュしています。多様性を示すため、現在の人々の声を生かすために、展示の構造や内容はどうしても複雑になってしまう。逆にいえば、これまでの反省にたったからこそ物語構成を採らなかったわけですから。

ポスト・モダン的なアプローチは先進的なミュージアムによく見られるようになった反面、その手法が来館者の体験にマイナスに作用してしまうという共通の課題が生じるようになったのです。これを解決するのは至難です。しかし大事なことは、だからといって近代的な展示手法に戻ることではないし、反対にジレンマに目を塞ぐことでもない、個々のミュージアムが内容や来館者の反応を調査したうえで、それぞれに策を講じていくしかないのかもしれません。


このブログは、アートローグのディレクターによって書かれています。

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