ロンドン,ミュージアム,ギャラリー,アート,ツアー,ガイド,案内,イギリス,英国,美術館,博物館,展覧会,観光,旅行,個人,日本人
文化を主としたロンドン現地ガイドツアー
info@artlogue.net

ランドスケープ・デザインとパワー:the Mall, Washington DC

「歴史と国の機関がひとところにこれだけ集中した都市は、おそらく他にはないだろうな」―ワシントンDCの地図を机のうえにひろげて、心の中でそう呟きました。平面的な地図と記憶のなかのイメージをダブらせながら、旅を振り返えっています。

map of DC

 

中央に横たわるのは緑の帯。その東端には白いドームの国会議事堂、反対側にはギリシア神殿のようなリンカーン記念碑、その真ん中に聳えるオベリスクがワシントン記念碑、そしてその上方にはホワイト・ハウス。それらをランドマークとして、Mallと呼ばれる緑地が広がる。それを囲むように黄色く塗られた建物とグレイの建物が立ち並んでいます。

グレイは労働省・法務省・財務省・教育省といった政府機関の数々。黄色は国立スミソニアン博物館群をはじめとするミュージアムです。Mallの西側には、第二次大戦記念碑、ベトナム戦争記念碑、ルーズベルト大統領記念碑、マーチン・ルーサー・キングの記念碑などが転々としています。

一望すれば、国家としての記憶、アイデンティティーを表象するミュージアムおよびメモリアルと、現在まさに稼働中の国家のエンジンが肩を並べていることが一目瞭然。かたや過去かたや現在、かたや静かたや動と、一見違う次元に属す場が並列しているように思えますが、そこを歩きまわり、今また全体を眺めてみると、ここには同じ力が充満しているのではないかと思えてなりません。それは国家というパワーです。

地図を裏返すと、この首都の心臓部の簡単な歴史が紹介されています。この都市デザインが計画されたのは1790年代。1776年独立宣言のすぐ後です。最初は、国会議事堂とホワイト・ハウスとモールという三角形のエリアから始まりました。内外に一国家であることを示す標だったのでしょう。

1800年代半ばには初代大統領ワシントンの記念碑やスミソニアン博物館が建設され、1900年代前半には、南北戦争後に再びアメリカを統一させたリンカーン大統領の記念碑が創られ、Mall が完成する。1900年代後半はミュージアム建築のラッシュです。当然、政治行政機関の建物も早い段階から議事堂やホワイトハウスの近くに建てられていきました。つまり、都市計画の最初から、政府動力と歴史を創る作業が同じ場所で平行して行われたわけです。

このデザインには、建国そして国家統合という精神が表れているのではないでしょうか。アメリカは歴史の浅い国だといわれます(厳密にいえば、この言い方も語弊を招くのですが)。ヨーロッパからの独立、異なるルーツをもつ人々の集合、南北戦争、アメリカ・インディアンや黒人との共生、移民問題。さまざまな課題に立ち向かい、国家を統合させるには、政治を動かすことと同様に共有される歴史を創ること、国の技術や文化の特異性を示すことが、非常に重要だと考えられてきたし、今もその考えが継続している。

また、スミソニアン・インスティチュートの発展をおってみれば、アメリカ合州国がどのように国を表象しようとしてきたのか、その変遷が垣間見えてくる。揺籃期である1800年代後半のミュージアムは、伝統文化の保存というよりは、むしろヨーロッパに追いつこうと産業技術科学の発展に寄与するよう機能しました。1872年にはナショナル・ギャラリーが建てられますが、自国の美術を表象するより、ヨーロッパと並ぶような優れたコレクション(もちろんヨーロッパの)を収集し、その財力や文化力を示そうというものでした。

しかし、第二次大戦後、表象のありようが変わってきます。アメリカの歴史や文化を表象しようとし始めたのです。たとえば、歴史技術博物館が歴史博物館になったこと、国立のアメリカ美術館やポートレイト・ギャラリーが設立されたことをみればよいでしょう。

80年代以降にはまた新たな変化。アフリカ美術館が1979年にスミソニアンに組み入れられたことにはじまり、国立アメリカン・インディアン・ミュージアムの設立(2004年)に代表されるように、かつて無視され蔑視されてきたマイノリティー集団の文化を、公平に表象しようと努力するようになったことです。このように、表象の対象やその中身、方法には、時代とともに変化があります。でも、その底辺に一貫してあるのは国家統合という精神だといえます。

今回は、このモール周辺を中心に観て回りました。もちろん、それだけの価値があることは疑いありません。ただ、1日中ミュージアムの建物のなかで過ごし、そのなかで観てきた「アメリカ」は、やはり、国家が表象したいアメリカであることに違いはない。政治的な操作や歪曲もあるのでしょう。多様なアメリカ社会の日常や関心とは、乖離したり矛盾したことも多々あるに違いないと思うのです。

そのような、たかだか表層的なアメリカでしかないことを承知のうえで、ミュージアムを通すからこそ見えてくる問題点、個別の展示や表象の仕方について、他者や国民との関係について考えたことを改めて書いてみたいと思います。

from Lincoln

リンカーン記念碑からワシントン記念碑を望む。モールは現在工事中(2013年完了予定)


このブログは、アートローグのディレクターによって書かれています。

アートローグは、ロンドン現地にて、ユニークな文化の旅の企画・ご案内や日英のミュージアム・コーディネートの仕事をしています。

観光の個人ガイドのほかに文化関係の通訳やミュージアム資料調査の代行も承ります。

サービス全体にご興味のある方は、下のロゴ(ロビンといいます)をクリックして下さい。

check_hare


コメントを残す