ハイテクノロジーの墓場に生きる人々:Pieter Hugo 写真展

白濁した背景。
そのど真ん中に、黒人の男が険しい顔をこちらに向けて立っている。
左肩には古びたタイヤ、頭には様々な色のコンピュータ配線の絡まった塊が、まるで伝統的な帽子のよう。
荒廃したモノクロの風景に男のシルエットが、そのまなざしが、くっきりと力強く、厳しく、かつ悲しい。

フォトグラファーズ・ギャラリーで南アフリカの写真家Pieter Hugoの「Parmanent Error」が行われています。
ガーナの首都近郊にある、広大なハイテクノロジーの廃棄物処理場で撮影された写真シリーズです。
処理場とはいっても、近代的に整備された施設ではなく、ただの野焼き状態の、たいへん有害な環境。
青い空などどこにもなく、空気は澱み、異臭を放ち、のどに突き刺さる。
その中に住みながら、リサイクルの仕事で日銭をかせぐ労働者たちのポートレートです。

私たちは、貧富の差が地球規模で蔓延していることを知っています。いや、「知っている」と思っている。
でも、どこまで「知っているっていうの?」 そう、この写真展は問いかけてくるのです。
ひょっとしたら、もう無感覚になってしまって、見て見ぬふりをしているだけなのかもしれません。
Hugoの作品は、テクノロジーが進化をし続けるその華やかさと平行して、今も、地球のどこかで貧困や不正が留まる気配もみせず、ひたひたと進行していることを、実体的に思い出させます。

わたしは写真の中の男も女も笑っていないことが、気になりました。
シビアな問題を取り上げているのだから、当たり前のようにも思えます。
しかし、南アフリカでの体験から、どんなに生活が苦しくても、人々は写真を撮られることが大好きだったことを思い出す。カメラを向ければ、必ずといってよいほど笑顔を見せてくれたものです。
Hugoの場合も、その場かぎりの撮影なら、人々はそう反応したのではないかと想像します。
では、彼らの真剣なまなざしはどこからきたのか。
それは、Hugo自身が被写体となった人々と、この貧困の問題、環境問題についてじっくり話をしたからではないか。
そこでしか生きられない彼らの生について、共に語りあったからこそ、人々の現実が彼らの表情を通して表れたのではないかと、思うのです。
だとすれば、それは、裏返ってわたしたちの現実でもある。
そして、私たちも「真剣なまなざし」でこの現実を見据えないといけないのではないか、そう考えさせられた展覧会でした。

Photographer’s galleryでは、Deutsche Borse 写真賞の展覧会が開催中。日本の川内倫子も受賞しました。9月9日まで

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(c)Pieter Hugo

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